第二章 あかねいろのまごころ 第二十四話|霧深き夜に見た繊月


祭りの喧騒が過ぎ去り、数日が経ったある夜。 真紀は、浩二と共にリビングでSNSの反応をチェックしていた。インフルエンサー・ミナミの投稿による爆発的な拡散は落ち着きを見せていたが、それとは別に、もっと静かで、しかし温かい「波」が起きていることに真紀は気づいた。

「ねえ、浩二さん。これ見て」

真紀が指差したスマホの画面には、祭りで完売したフレンチ弁当の写真が投稿されていた。しかし、撮影者がフォーカスしているのは、中身の料理ではなく、その横に置かれた「包み紙」だった。

『お祭りで買ったお弁当。フレンチも美味しかったけど、この包み紙がなんか好きで捨てられない。娘さんが描いたのかな? 優しい色』 『#まごころ弁当 #あかねいろ』

同様の投稿が、いくつも見つかった。「高級店にはない温度感」「手作りっぽくていい」といったコメントが添えられている。

真紀の脳裏に、祭りの数日前の光景が蘇った。

それは、祭りでの販売に向けて、浩二が試作のテリーヌを完成させた夜のことだった。 「味は完璧だ。これなら屋台でも勝負できる」 浩二は自信を見せたが、真紀の表情は晴れなかった。 「でも……容器がいつものプラスチックのままじゃ、せっかくの料理が台無しよ。かといって、今から特注の箱なんて間に合わないし、予算もない……」

「中身で勝負すればいいだろう」と言う浩二に対し、真紀は首を横に振った。祭りというハレの場だ。手に取った瞬間の「ときめき」が必要だと感じていた。

その時、ダイニングテーブルの隅で、娘のあかねがお絵描きをしていた。 「ママ、みて! ゆうやけ!」

あかねが掲げた画用紙には、赤、オレンジ、黄色が混じり合い、まるで夕暮れの空のような、温かく優しいグラデーションが広がっていた。何かの形を描こうとしたわけではない、子供ならではの自由で無垢な色彩。

「……あかね色だね」 真紀は呟き、ハッとした。

「浩二さん! これ、これを使おう!」 真紀は画用紙を手に取った。 「あかねの絵をスキャンして、包み紙にするの。私たちの『まごころ』って、こういうことじゃない?」

「子供の落書きだぞ? フレンチに合うか?」と戸惑う浩二を押し切り、真紀はその夜、自宅のプリンターをフル稼働させた。あかねの描いた暖かなグラデーションの上に「まごころ弁当」とだけ記された、シンプルで不器用な包み紙。 祭りの前夜、家族三人でその紙を弁当箱一つ一つに巻いていったのだ。

回想から戻り、真紀は隣で眠ってしまったあかねの寝顔を優しく撫でた。

「あの時の急ごしらえの包み紙が、こんな風に届くなんてね」

浩二も、スマホ画面に映る包み紙の写真を見つめ、少し照れくさそうに頭を掻いた。 「高級感なんてない、ただの紙切れだと思ってたが……。お客さんは、味だけじゃなく、こういう『空気』も食べてるんだな」

バズりや炎上といった、刺激的な拡散ではない。 しかし、その投稿を見た人々の中に、「行ってみたいな」「なんか良さそうな店だな」という、じんわりとした温かい感情が芽生え始めていた。

ユウキがAIを使って大量生産した「情報」にはないもの。 それは、そこに人の営みがあり、家族がいて、想いがあるという「体温」だ。 あかねの描いた不器用な「あかねいろ」は、デジタルの海の中で、まごころ弁当という店の確かな実在証明(エンティティ)として、静かに、しかし力強く波紋を広げていた。

第二章 あかねいろのまごころ 第二十五話

第二章 あかねいろのまごころ 第二十三話

第二章 あかねいろのまごころ(第二章の目次)

霧深き夜に見た繊月 ― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略(目次)


著者・監修 : 株式会社ファンフェアファンファーレ

2012年創業の京都のWeb制作会社 ホームページ制作やSEO、Web集客・Webマーケティングをメインテーマにお届け。SEOやAI活用、Web以外の集客何でも来いです。中小零細企業を中心に「きちんとしたホームページ集客」を考えて、ホームページ制作や様々なWeb集客戦略を提案しています。 ホームページ制作に限ると、のべ制作数は160社(少ないって?それはそれだけ1社あたりのWeb集客施策や修正に集中してるからさ)

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