「潜在ニーズを掘り起こし、熟考型に信頼感を与える。それが次のステップだ」
一平の言葉を聞きながら、俺は改めてWeb集客の奥深さを感じていた。同時に、一平がなぜこれほどまでにWebマーケティングに詳しいのか、彼の過去に興味が湧いた。
「一平ってさ、昔からそんなにWebに詳しかったのか?」
俺が尋ねると、一平は豪快に笑った。
「はは、そんなことはない。昔は、中学の頃からバンド一筋だったよ。卒業してすぐ、某大手IT企業の法人営業として社会人デビューしたんだ。Webの世界に入ったのは、営業時代に、効率的な営業の重要性を痛感したからだよ」
一平は、遠い目をしながら語り始めた。
「俺が新人の頃、指導してくれたのは、まさに『トップ営業マン』って感じの先輩だった。数字のためなら何でもやる。アポなしの飛び込み訪問なんて当たり前。最初は正直、苦手だったね。特に、一度断られたところに再訪するなんて、気が重くて仕方なかった」
一平の声のトーンが、少し懐かしむように変わる。
「ある日、飛び込みで訪問した小さな工場の社長さんが、やたらと話好きな人でな。俺が訪問するたびに、会社の歴史とか、趣味の話とか、延々と聞かせてくれるんだ。製品の話には全然ならないのに、なぜか毎回『また来てくれよ』って言ってくれる。それで、先輩に『次もアポ取れました!』って報告したんだ」
一平は、そこで言葉を区切った。俺は、続きを促すように黙って見つめる。
「で、先輩を連れて意気揚々と再訪したんだが……。結果は、見事に空振り。営業の話を切り出そうとすると、急に忙しいふりをされたり、話を逸らされたりしてな。結局、何も成果なく帰ることになった」
「そうか……。それは、きついな」
俺が同情の言葉を口にすると、一平は苦笑した。
「ああ、きつかった。俺は落ち込んで、『あの社長、俺のこと気に入ってくれてると思ったんですけどね……』って、先輩に愚痴をこぼしたんだ。そしたら、先輩はこう言ったんだよ」
一平は、まるでその時の光景が目の前にあるかのように、少し低い声で続けた。
「『一平、よく聞け。あの手の人はな、話好きなだけで、営業の話になると急に態度が変わる。暇つぶしに付き合ってくれるのと、金を出すのは全く別物なんだ。相手が本気で困っているのか、その解決策にいくらまでなら払う気があるのか、それを見極めるのが営業だ。無駄なアポに時間を割くな。一度話を聞いて、脈がないと思ったら、どんなに愛想が良くても深追いするな。営業は、愛想笑いをしに行く仕事じゃない。客の課題を見つけて、それを解決してやる仕事なんだ』」
一平は、そこで話を締めくくった。
「その言葉は、俺の営業人生を大きく変えた。そして、Webマーケティングの世界に入ってからも、ずっと俺の根底にある考え方だ。表面的な関係性や、単なるアクセス数に惑わされるな。本当に困っている客を見つけ、その課題をWebで解決してやる。それが、お前の工務店が生き残る道だ、健太」
一平の言葉は、彼の経験に裏打ちされた重みがあった。
俺は、トップ営業マンからの助言と、Web集客の原理が、まさに同じ根っこで繋がっていることを理解した。
表面的な数字や印象に惑わされず、本当に価値あるものを見極める。それは、工務店の仕事にも通じる大切なことだった。