「ニーズが顕在化している層と、そうじゃない層。それぞれに合わせたメッセージが必要になる」
一平は、ホワイトボードに二つの円を描きながら説明を始めた。片方の円には「顕在層」、もう片方には「潜在層」と書かれている。俺は、その言葉を食い入るように見ていた。リスティング広告が顕在層に効くのはわかったが、それ以外の層にどうアプローチするのか。
「健太、お前のWordPressサイト、コンテンツの網羅性がかなり整ってきた。つまり、お前の工務店が『住宅の専門家』として、検索エンジンにも伝わりやすくなったってことだ。これで、Googleも『このサイトには、家のことなら何でも載っているぞ』と認識してくれる」
俺は頷いた。一平が以前言っていた「サイト全体のSEO」ということだろう。リファラースパム対策や、コンテンツの質の改善、趣味的な記事の整理など、地道な作業を続けてきた甲斐があった。
「ここからは、さらに踏み込んだWeb集客が必要になる。まず、リスティング広告でアプローチしていたような、ニーズがすでに顕在化している層。例えば、『バリアフリー改修 見積もり』と具体的に検索するような人たちだ。こういう人たちには、これまでのLPや、ホームページ内の関連ページで、具体的な解決策や実績、見積もりまでの流れを明確に伝えるメッセージが重要になる」
「そこは、今のLPで対応できてるってことか?」
「ああ。だが、それだけでは頭打ちになる。次に考えるべきは、ニーズがまだ潜在化している層だ。『家がなんとなく寒い』『廊下が暗い』『そろそろ親の足元が心配だけど、何から手をつけていいか分からない』……そういう、漠然とした悩みを抱えている人たちだ。彼らは、具体的な解決策を求めているわけじゃない。まずは、自分の悩みが何なのか、その解決策にはどんなものがあるのか、という『気づき』を与えていく必要がある」
一平の言葉に、俺は目から鱗が落ちる思いだった。確かに、バリアフリー改修が必要だと明確に認識している人ばかりではない。
「そういう層には、ブログ記事や動画コンテンツが有効だ。『冬の寒さ対策は窓がポイント!』とか、『手すり一つでここまで変わる!高齢者のための安全な暮らし』とか、彼らの心に響くテーマで、役立つ情報を提供していくんだ。そうやって、彼らの中に眠っているニーズを掘り起こしていく」
一平は、さらに続けた。
「そして、もう一つ重要なのが、熟考型、つまり比較検討に時間をかける層へのアプローチだ。彼らは、すぐに問い合わせをしない。じっくりと情報を集め、複数の業者を比較検討する。こういう人たちには、ホームページ全体で『信頼感』を高めるメッセージが重要になる」
「信頼感、か……。それはどうやって出すんだ?」
「施工事例をもっと詳細に、お客さんの声をもっとたくさん。顔が見えるスタッフ紹介や、健太自身の工務店に対する熱い想い。そういった、感情に訴えかける情報や、実績の裏付けを充実させることだ。彼らが『この工務店なら、安心して任せられる』と感じられるような、深いメッセージが必要になる。潜在ニーズを掘り起こし、熟考型に信頼感を与える。この二つを意識して、コンテンツとメッセージを分けることで、Web集客は次の段階に進む」
一平の言葉は、俺の頭の中に新たな戦略の地図を描き始めていた。リスティング広告の先の、広大なWeb集客の世界が、今、俺の目の前に広がろうとしていた。
霧深き夜に見た繊月 ― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略(目次)
参考