第一章 第三話|霧深き夜に見た繊月   updated !


「甘く見ていた、か……」

俺は一平の言葉を反芻した。否定する言葉は出てこない。まさにその通りだった。Web集客という言葉の響きに、安易な成功を夢見ていたのかもしれない。

「ああ、甘いぜ、健太。 Web集客は魔法じゃない。それに、別にWeb集客にこだわる必要もないんだぜ。集客の方法なんて、いくらでもある」

一平はそう言って、事務所の窓の外に目を向けた。その言葉に、俺は少しだけ救われたような気がした。

「そうなのか……。じゃあ、他にはどんな方法があるんだ?」

俺は前のめりになって尋ねた。一平はゆっくりと口を開いた。

「例えば、紹介だ。これまでの顧客からの紹介は強力な武器になる。あとは、地域のイベントに参加したり、地元紙に広告を出したりするのも手だな。だが、どれもそれなりに予算は必要になる。それに、成果が出るまでには時間もかかる」

一平の言葉に、俺はまた顔を曇らせた。結局、金がかかるのか。俺にはそんな余裕はない。

「予算か……。それが、一番の問題でな。正直、今はまとまった金を出すのは厳しい」

俺がそう言うと、一平は小さく頷いた。

「だろうな。で、健太。今、お前の会社の状況はどうなってるんだ? 具体的に、どんな仕事をして、どうやって客を見つけてたんだ?」

一平の質問に、俺はこれまでの状況を話した。

小さなリフォームから、水回りの修理、内装工事まで、なんでも請け負っていたこと。ほとんどが昔からの常連客からの依頼で、新しい客は飛び込みか、口コミで稀に来る程度だったこと。そして、最近は下請けの仕事をくれていた事業者や常連客が高齢化して仕事が激減していること。

一平は俺の話を聞きながら、時折メモを取っている。その真剣な眼差しに、俺は少しだけ安心感を覚えた。

「なるほどな……。健太、お前んとこの強みは何だ? 他の工務店にはない、お前だけの売り、みたいなもんだ」

一平の問いに、俺は言葉に詰まった。強み、か。そんな大層なものがあるだろうか。

「強みって言われてもな……。うちは、昔から真面目にやってきただけだ。一つ一つの仕事を丁寧に、って」

俺がそう答えると、一平はペンを止め、俺の目を見た。

「それだよ、健太。それがお前んとこの強みだ。今の時代、丁寧な仕事は当たり前じゃない。手抜きしたり、客を騙したりする業者も少なくない。お前が真面目に、一つ一つの仕事を丁寧にやってきたこと。それがお前の会社の信頼につながってる。そして、それがお前の工務店のUSPだ」

USP。ユニーク・セリング・プロポジション。そんな横文字は俺にはよく分からない。だが、一平の言葉は、なぜか俺の心に響いた。俺のやってきたことは、無駄じゃなかったのかもしれない。

「だがな、一平。それだけで今の状況を打破できるとは思えねえ」

俺がそう言うと、一平は小さく笑った。

「その通りだ。だからこそ、これから考えないといけないことがある。健太、お前んとこの顧客は、どんなことで困って、お前に何を期待して依頼してくるんだ? そして、お前は、その期待にどう応えてきたんだ?」

一平の質問は、俺の頭の中を整理していくようだった。俺は、これまで漠然とやってきた仕事のやり方や、顧客との関係性を、初めて客観的に見つめ直すことになった。

第一章 第四話|霧深き夜に見た繊月

第一章 第二話|霧深き夜に見た繊月

霧深き夜に見た繊月 ― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略(目次)

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