夜、事務所の蛍光灯の下で、俺は腕を組み、唸っていた。一平とのオンライン会議まであと数時間。ホームページの改善策について、自分なりに考え抜いたことをまとめた資料を前に、何度も読み返す。
素人なりに、USPを意識して、サービスの具体的な内容やお客様の声を載せるページ、問い合わせフォームの改善などを盛り込んだ。これだけやれば、きっと客は増えるはずだ。
意を決して、以前ホームページ制作を依頼した業者に、俺が考えた改善策を伝え、見積もりを依頼してみた。数日後、送られてきた見積書を見て、俺は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
「…100万円だと?」
あまりの金額に、俺は声が出なかった。月額1万円のホームページでさえ清水の舞台だった俺にとって、100万円など、想像を絶する金額だ。すぐにその話はいったん保留にしてもらったが、俺の頭の中は真っ白になった。
夜9時。パソコンの画面に、一平の顔が映し出された。
「よう、健太。調子はどうだ?」
「調子どころじゃねえよ、一平」
俺は開口一番、そう答えた。そして、妻の美咲にInstagramの投稿を停止させたこと、そして、ホームページの改善見積もりが100万円だったことを一平に伝えた。
「Instagramの件は、賢明な判断だ。目的意識のない発信は、労力の無駄だからな。で、ホームページの見積もりか……。なるほどな」
一平は、俺の話を聞きながら、冷静に頷いている。
「100万なんて、とてもじゃないが出せねえよ。そもそも、今、捻出できる予算は、せいぜい30万円程度だ。この状況で、本当にホームページをリニューアルする必要があるのか? それすら分からなくなってきた」
俺は、半ば諦めにも似た気持ちで、一平に問いかけた。
一平は、俺の言葉をじっと聞いていた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「健太。結論から言えば、ホームページのリニューアルは必要だ。ただし、全部を一度にやる必要はない。予算が30万円程度しかないなら、その中で最大限の効果を出す方法を考えればいい」
俺は、一平の言葉に、わずかな希望を見出した。
「どういうことだ?」
「まず、その30万円で、お前が今考えているすべての改善を網羅するのは不可能だ。だが、最も重要な部分に絞って、効果的なリニューアルを行うことはできる。
お前の工務店を立て直すには、まずWebからの新規集客の仕組みを構築する必要がある。そこで、まずは二つの施策から始める」
一平は、俺の不安そうな顔を見て、落ち着いた声で話し始めた。オンライン会議の画面には、簡潔な資料が映し出されている。
「一つ目は『LP(ランディングページ)』の制作だ。これは、リスティング広告をクリックした客が最初に辿り着く、お前の工務店の魅力を最大限に伝えるための特設ページだ。余計な情報は削ぎ落とし、お客さんが『ここに頼みたい!』と直感的に思えるような、問い合わせに特化したページにする」
LP。俺には聞き慣れない言葉だったが、一平の説明を聞くうちに、その重要性が少しずつ理解できた。これまでのホームページのように、ただ情報が羅列されているだけではダメだというのだ。
「そして二つ目は、そのLPへお客さんを呼び込むための『リスティング広告』の運用だ。これは、Googleなどの検索エンジンで、お客さんが『〇〇(地域名) 工務店』とか『リフォーム 見積もり』といったキーワードで検索した時に、お前の工務店の広告を上位に表示させるものだ。ターゲットを絞って効率的にアプローチできる」
「なるほど……。それが、Web集客の基本ってやつか」
俺は呟いた。これまで漠然としていたWeb集客が、具体的な形として見えてきた。
一平は、画面共有で一枚の資料を表示した。そこには、「LP(ランディングページ)運用」という文字と、いくつかの図が描かれている。
「今のお前の状況で、最も効果的なのはLP運用だ。特定のサービスに特化した、一枚もののWebページを作って、そこに集客する。例えば、『小さな困り事も迅速解決!電球交換からバリアフリーまで、地域密着の工務店にお任せください!』といった具合に、お前の強みを前面に押し出すんだ」
一平は、続けた。
「LPには、お客さんが知りたい情報を凝縮して載せる。具体的な料金、施工事例、お客様の声、そして、すぐに電話できるボタンや問い合わせフォームを大きく配置する。こうすることで、お客さんが迷うことなく、行動に移せるようになる」
一平は、さらに続けた。
「そして、このLPには、広告を出すんだ。最初は少額でいい。ターゲットを絞って広告を配信すれば、興味のあるお客さんだけをLPに誘導できる。まずは、このLPで収益を上げて、そこで得た利益を、本格的なホームページのリニューアル費用に回していく。それが、今のお前ができる最善策だ」
俺は、一平の提案に目を見張った。30万円という限られた予算の中で、収益を上げて、次の投資に繋げていく。まさに、俺が求めていた道筋だった。
「なるほど……。それなら、俺にもできそうだ」
俺は、ようやく光が見えたような気がした。