「なあ、一平。リスティング広告なんだけどさ」
ある日のオンライン会議で、俺は疑問をぶつけた。
「LPのおかげで受注には繋がったのは嬉しいんだが、その後、広告費を倍にしても、そこから先がなかなか伸びない。どうしてなんだ?」
リスティング広告は順調だと感じていたが、実際に広告費を増やしても、期待したほどの効果は見られなくなっていた。まるで壁にぶつかったような感覚だ。
一平は、俺の問いに頷き、冷静に説明を始めた。その体格の良い体が、画面越しでも俺を落ち着かせる。
「健太、お前が疑問に思うのも無理はない。まず、今のLP運用はバリアフリー改修に特化して設定しているのを覚えているか?」
そうだった。漠然とした内容では問い合わせしづらい。だからこそ自分たちの強みを前に出しながらも、短期決戦で挑むLP運用はバリアフリー改修に特化する形で試してみようという流れになったのだった。
「ああ、もちろん。それが一番客から選ばれやすいって言ってたな」
「そうだ。バリアフリー改修は、自治体や介護保険からの補助金があるため、お客さんの金銭的なハードルが下がる。だから、ある程度の単価でも受注に繋がりやすいというメリットがあるんだ。そして、このリスティング広告は、エリアをかなり絞り込んで運用している」
一平の言葉に、俺はピンときた。だからこそ、少額の広告費でも最初の1件に繋がったのか。
「つまり、その分、費用対効果は高かったわけだ。でもな、健太。エリアを限定しているということは、その地域での潜在的な需要には限界があるってことだ」
俺の頭の中で、パズルのピースがはまっていくような感覚があった。確かに、バリアフリー改修を必要とする人は、そう頻繁に現れるわけではない。
「今、広告が拾えているのは、まさに『バリアフリー改修をしたい』というニーズが顕在化していて、かつ、知り合いに工務店をやっている人間がいない層だ。そういう人たちは、インターネットで必死に業者を探すから、リスティング広告が有効に機能する」
一平は、さらに続けた。
「だが、残念ながら、補助金がある分、この分野は競合も多い。他の工務店も、同じようにリスティング広告を出している。だから、一定の成果が出た後は、広告費を単純に増やしても、獲得効率が落ちてしまうんだ」
俺は、全てを理解した。最初の一件が取れて喜んだ裏には、そういった限界があったのか。リスティング広告が万能ではないことを、改めて思い知らされた。
「じゃあ、この先、どうすればいいんだ?」
俺がそう問うと、一平は不敵な笑みを浮かべた。
「ここからが、お前の工務店の本当の勝負だ、健太。リスティング広告の限界は理解できたな? では、その次の手を打つフェーズに入ろう」
一平の言葉に、俺の胸は再び高鳴った。まだ見ぬ次の戦略が、この行き詰まりを打破してくれるのかもしれない。