「まさかあいつが……。いや、それはないか」
Search Consoleの異変について相談した後、電話を切った一平は、パソコンの画面に映る健太の工務店のサイトを眺めながら、独りごちた。悪質なリンク攻撃。この手口を知っている人間はそう多くない。そして、最も恩恵を受けるのは、競合だ。
一平の脳裏に、高校時代のユウキの顔が浮かんだ。
ユウキは、高校時代から目立つ存在だった。派手な格好をして、どこか浮世離れした雰囲気を持つ一方、人懐っこい笑顔と巧みな話術で、あっという間にクラスの人気者になった。一平とはタイプが真逆で、深く関わることはなかったが、その存在感は無視できないものがあった。卒業後、ユウキがホストになったという噂を聞いた時も、さほど驚きはしなかった。
起業してから数年後、一平は経営者の集まりで偶然ユウキと再会した。ユウキはすでにホストを引退し、実家の工務店を継ぎ、リフォーム中心に事業をシフトしてWeb集客で事業を大きく伸ばしていると聞いた。
「おう、一平じゃねえか! お前も社長になったんだってな。元気か?」
ユウキは、昔と変わらない自信満々の笑顔で、一平に近づいてきた。その頃、一平の会社はまだ軌道に乗ったばかりで、資金繰りにも苦労していた時期だ。
「俺は、最近Web集客に力を入れてるんだよ。うちのホームページ、見てくれたか? お前んとこもWeb制作やってんならさ、もう少し仲良くなったらSEOのすごい人紹介してあげるよ」
ユウキは、まるで親切心から言っているかのように、一平の事業を小馬鹿にするような口ぶりで言った。「ホームページに顔を出さないやつなんて信じられない」とも、暗に自分を棚に上げて言われたこともあった。
一平が顔出しをしないスタンスで事業をしていることを知っていて、わざと言っているのが透けて見えた。
その言葉に、一平の胸にはチリチリとした苛立ちが募った。Web集客で先行しているという自信が、その言葉の端々からにじみ出ていた。わざわざそんなことを言いにくるあたり、嫌味な奴だと思ったものだ。
「まあ、うちはリフォームが中心だから、特にWeb集客には力を入れてるんだ。おかげさまで、この地域のシェアはほぼ独占状態だよ」
ユウキはそう言い放ち、得意げに笑った。その時の苛立ちが、今でも一平の胸に深く刻まれている。
(まさか、健太のサイトに攻撃を仕掛けるほど、卑劣な真似を……。いや、あいつはああ見えて、筋は通すタイプだ。直接的な嫌がらせはしないだろう)
一平は、頭を振って思考を打ち消した。だが、心の奥底に、ユウキへの警戒心が再び呼び起こされたのは確かだった。今回の件は、単なる迷惑行為ではない、何か別の意図があるのかもしれない。一平は、静かに、そして鋭い眼差しで、パソコンの画面を見つめ続けた。
霧深き夜に見た繊月 ― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略(目次)
参考