「で、健太。今、使ってるホームページはどんな感じなんだ?」
一平はそう言って、俺の事務所の隅に置かれた古びたデスクトップパソコンに目をやった。
「ああ、これなんだが……」
俺はパソコンの電源を入れ、ブラウザを立ち上げた。表示されたのは、1年前に業者に作ってもらった、月額1万円のサブスクホームページだ。テンプレートをそのまま使ったようなデザインで、内容も薄っぺらい。連絡先と簡単な事業内容が書いてあるだけで、とてもじゃないが客が魅力を感じるような代物ではなかった。
一平は画面を覗き込み、眉間に皺を寄せた。
「ふむ……。まあ、正直言って、これはひどいな」
その言葉に、俺は肩を落とす。分かっていたこととはいえ、プロに言われると余計に情けない。
「だろ? 俺もそうは思ってたんだが、どうすればいいのか分からなくてな」
「無理もない。これは、ただの『名刺代わり』のホームページだ。お客さんが求めている情報が何もない。これじゃ、誰も問い合わせてこないのも当然だ」
一平は、ホームページの各ページを次々とクリックして確認していく。その手つきは、まるで獲物を吟味するような鋭さだった。
「まず、全体的に情報が少なすぎる。お前がさっき話してくれた『迅速な対応』や『小さな仕事も厭わない』といった強みが、どこにも表現されていない。写真も少なすぎるし、お客様の声もない。これじゃ、どんな工務店なのか、お客さんには伝わらないな。あお、工務店の名前で検索される以外では検索エンジンからのアクセスもないだろう」
一平の指摘は、的確だった。俺はただ漠然と「ホームページがあればいい」と考えていただけだった。
「分かった。これは、もう作り直すしかないのか?」
俺が尋ねると、一平は首を横に振った。
「いや、作り直すだけが全てじゃない。まずは、今あるものをどう活かすか、だ。もちろん、根本的な改善は必要になるが、いきなり大金をかけて作り直す必要はない。それよりも、もっと重要なことがある」
一平は、そう言ってパソコンの電源を落とした。時計を見ると、もう夜遅い時間になっていた。
「今日はもう遅い。この続きは、また後日、オンラインで会議しよう。その方が、お互い時間を合わせやすいだろ」
「ああ、助かる」
俺は一平を見送った。一平が帰った後も、俺は事務所で一人、ホームページの画面を思い出しながら考え込んでいた。
翌日。
俺は朝早くに妻の美咲を事務所に呼び出した。美咲は、訝しげな顔で俺を見つめる。
「急にどうしたのよ、健太。何かあった?」
「ああ、ちょっと話がある。Instagramのことなんだが……」
俺は、一平との会話の内容を美咲に伝えた。ホームページの現状、そしてWeb集客におけるUSPの重要性。そして、一平がInstagramの運用についても助言してくれることになった、と。
「で、だ。悪いんだが、今、更新してるInstagramの投稿なんだが、一旦停止してほしい」
俺がそう告げると、妻は驚いた顔をした。
「え、どうして? せっかく毎日頑張って投稿してたのに……」
「気持ちは分かる。だが、一平と話して分かったんだ。俺たちのインスタは、ただ写真と文章を上げてるだけで、お客さんに何を伝えたいのかが明確じゃなかった。このまま続けても、時間と労力の無駄になる」
妻は納得いかないような顔をしていたが、俺の真剣な表情を見て、何も言わずに頷いた。
「今後の運用については、一平と相談してからでいい。だから、それまでは、新しい投稿はしないでくれ。頼む」
妻は、少し不満そうではあったが、最終的には俺の言葉に従ってくれた。
重い空気が流れる事務所で、俺は改めて、これから始まるWeb集客の道のりが、決して簡単なものではないことを実感していた。だが、一平の言葉を信じて、前に進むしかない。
霧深き夜に見た繊月 ― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略(目次)
参考