蛍光灯が瞬く事務所で、俺は慣れないパソコン作業の合間に、ふと手を止めた。窓の外は、もうすっかり暗くなっている。娘はもう寝ただろうか。妻は今日も、俺の不甲斐なさにため息をついているかもしれない。
俺の人生は、いつも誰かの後を追うようにして進んできた気がする。高校を卒業して、特にやりたいことも見つからず、成り行きで親父の工務店を継いだ。親父は腕のいい職人だったが、経営には疎いところがあった。俺もまた、その血を引いているのかもしれない。
大学に進んだ同級生たちが、スーツを着て都会で働く姿を見るたび、俺はこれで良かったのかと自問自答した。だが、結局、この町で、この工務店で生きていくことしかできなかった。大きな決断を迫られるたびに、いつも誰かに背中を押してもらっていた気がする。今回のWeb集客もそうだ。一平がいなければ、俺は今も途方に暮れていたに違いない。
一平に「自分で考えろ」と言われたLP制作の依頼先。相見積もりサイトもクラウドソーシングも見たが、どれも決め手に欠けた。
妻の友人のツテで紹介してもらったデザイナーのポートフォリオは確かに立派だったが、それが俺の工務店の売上につながるのか、素人には判断できなかった。結局、どれもこれも保留にしたままだ。
約束の時間が近づき、俺は重い気持ちでパソコンの前に座った。一平とのオンライン会議が始まった。
「よう、健太。LPの内容は考えられたか? 業者選びの方はどうだ?」
一平の問いに、俺は正直に答えるしかなかった。
「ああ、LPの内容は、一平に言われた通り、俺たちの強みを前面に出す形でまとめた。写真も自分で撮ったものを用意してる。だが、業者選びが、どうにも決められなくてな……」
俺は、相見積もりサイトやクラウドソーシングの業者たちの頼りなさを説明し、妻の友人のツテで紹介されたWebデザイナーのことも話した。ポートフォリオは良かったが、専門家じゃない俺には判断できないこと、結局、保留にしたままだ、と。
一平は、俺の話を黙って聞いていた。そして、いつものように、まっすぐ俺の目を見て、問いかけた。
「で、どうするの? 誰に頼むの?」
その言葉は、まるで俺の胸ぐらを掴んで揺さぶるようだった。自分で決断できない俺の弱さを、一平は知っている。だからこそ、敢えて俺に決断を迫っているのだ。
俺は、言葉に詰まった。誰に頼むのか。このままでは、また何も決められないまま、時間だけが過ぎていく。一平は、俺の沈黙を見透かしたように、さらに言葉を重ねた。
「健太。お前がここで決めなければ、何も始まらない。LPの内容をどんなに良いものにしても、形にならなければ意味がないんだ。時間は有限だ。お前の工務店の未来は、今、お前の決断にかかっているんだぜ?」
一平の言葉が、重く、俺の心にのしかかる。俺は、これまで避けてきた「決断」という名の重圧に、初めて真正面から向き合わされていた。