第一章 第十五話|霧深き夜に見た繊月   updated !


「なあ、一平。これで一時的に客が増えたとしても、この先、ずっとこれでやっていけるのか?」

オンライン会議で、俺はリスティング広告の開始を前に、一平に素朴な疑問をぶつけた。短期的に客が増えるのはありがたいが、それがこの工務店の根本的な解決になるのか、不安だった。

一平は、俺の問いかけに満足げに頷いた。

「いい質問だ、健太。その通り、一度受注した客との接点を保つことは非常に重要だ。特に、お前の工務店がターゲットとする高齢者層は、信頼関係を重視する傾向が強い。Web経由で知り合ったとしても、顔が見える関係性、つまり存在感を保つことが大切になる」

「存在感、か……。具体的にはどうすればいいんだ?」

「そこで再びSNSの出番だ。顧客の年齢層にもよるが、今は高齢者でもSNSを使っている人が増えている。Instagramもそうだし、LINE公式アカウントなんかも有効だろう。一度受注した客には、SNSを通じて定期的に情報発信をするんだ。

例えば、簡単な住宅のメンテナンス方法の動画を投稿したり、季節の変わり目に注意すべき点をアドバイスしたり。直接的な営業ではなく、役に立つ情報を提供することで、客は『あの工務店は、いつも私たちのことを気にかけてくれている』と感じるようになる。

そうすれば、また何か困ったことがあった時に、真っ先に健太の工務店を思い出してくれるはずだ」

一平の言葉に、俺はハッとした。SNSは、ただ新規客を呼び込むだけのツールではない。既存顧客との関係性を深めるための、強力な武器にもなりうるのだ。

「なるほど……。じゃあ、Instagramの投稿も再開した方がいいってことか?」

俺が尋ねると、一平は小さく笑った。

「ああ、その通りだ。前のようになんとなく投稿するのではなく、ターゲット層にとって役立つ情報や、お前の工務店の『らしさ』が伝わる内容を、低頻度でいいから続けてみろ。お前自身も、前に一年間やってたんだ。多少なりとも『なんとなくのコツ』は掴んでいるはずだ」

俺は、またInstagramの運用を再開することに、少しだけ抵抗があった。だが、一平の言葉には説得力があった。

「分かった。やってみるよ」

そして、リスティング広告の運用が始まった。慣れない日々が続いたが、一平の緻密な調整のおかげか、すぐに成果が出始めた。少額ではあったが、近隣エリアから数件の問い合わせが舞い込み、実際に受注へと繋がったのだ。

「一平! 朗報だ!」

ある日のオンライン会議で、俺は興奮気味に一平に報告した。

「先月から始めたリスティング広告のおかげで、新規受注が数件あったんだ! Web経由で、だ!」

俺の報告に、一平は冷静に頷きながらも、どこか満足げな表情を浮かべていた。

「おお、それは良かったな、健太。で、そのWeb経由の受注からの利益は、広告費に対してどれくらいになったんだ?」

一平の問いに、俺は算盤を弾きながら答えた。

「それがな、利益で計算してみたら広告費の3倍くらいになってたんだ! たった10万円の広告費が3倍になって返ってきた」

俺は、一平の言葉に思わず声を上げた。これまでの苦労が報われたような気がして、俺の胸は熱くなった。

「利益で300%か。ROASならもっとだな。…よし。であれば、この勢いを逃す手はない。翌月の広告費は、倍の20万円に増やそう。LPは同じものを使って問題ない」

一平は、冷静に次の手を打ってきた。俺は、一平の言葉に迷いはなかった。

「分かった。頼む、一平!」

俺は、オンライン会議の画面の向こうの一平に向かって、深く頭を下げた。目の前に広がる道筋が、少しずつ、しかし確実に、明るさを増していくのを実感していた。

第一章 第十四話|霧深き夜に見た繊月

霧深き夜に見た繊月 ― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略(目次)

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