健太の「強み」についての問いかけに、真紀はしばらく黙り込んでいた。自分のお店の良いところは何か。当たり前すぎて、かえって見えなくなっていたのかもしれない。やがて、彼女はゆっくりと話し始めた。
「うちの店は、数年前まで普通の飲食店だったんです。カフェみたいな感じで、ランチを出したり、夜はちょっとした洋食を提供したり。でも、ご存知の通り、世の中が大変な時期になってしまって……。それで、思い切って弁当店に業態を変えたんです。テイクアウトに力を入れたら、それが意外と好評で、その流れで完全に『まごころ弁当』として再スタートを切ったんです」
健太は頷きながら、真紀の話に耳を傾けた。彼女の店の背景は知っていたが、業態転換の具体的な経緯を聞くのは初めてだった。
「今は、日替わり弁当とか、唐揚げ弁当とか、いわゆる『普通のお弁当』のラインナップしかないんです。それが一番需要があるかなと思って」
真紀はそう言った後、少し間を置いて、控えめな口調で続けた。
「でも、実は……夫は、どんな料理でも作れるんです。昔は、フレンチレストランで修行もしていたんですよ。だから、本格的なフレンチのコース料理なんかも作れますし、和食でも中華でも、頼まれれば何でも。ただ、お弁当となると、あまり冒険しすぎても、受け入れてもらえないんじゃないかと思ってしまって……」
真紀の言葉に、健太はハッとした。フレンチレストランでの修行経験。どんな料理でも作れるという浩二の才能。それは、まさに「まごころ弁当」が他店にはない、大きな「強み」になり得るのではないか。今の「普通のお弁当」のラインナップからは想像もできない、隠れたポテンシャルがそこにあった。
「フレンチの修行経験、ですか! それはすごいですね!」
健太は思わず身を乗り出した。この情報こそ、真紀が探していた「売り」のヒントになるかもしれない。単なる「美味しい弁当屋」ではなく、その裏にある店主の確かな腕と経験をどう見せていくか。健太の頭の中で、新しいアイデアが芽生え始めていた。







