健太は、真紀が話す「まごころ弁当」の現状と、夫・浩二の隠れた才能に耳を傾けていた。フレンチの修行経験。どんな料理でも作れる腕。それは確かに大きな強みだ。だが、それをどうWebで表現し、集客に繋げるか。
「真紀さん、僕も工務店をやっていて、ついこの間まで集客のことなんて全くの素人だったんです。だから、偉そうなアドバイスなんてできることはないんですけど…」
健太は控えめに前置きした。一平のような専門知識はない。だが、自分自身の経験を元に、真紀の力になれることはあるはずだ。
「えっと、真紀さんの『まごころ弁当』のInstagramは、どんな投稿をされていますか? それから、お店側で何か集客のために取り組んでいることとか、ありますか?」
健太は、美咲が工務店のInstagramを運用している様子を思い出しながら尋ねた。自分たちの場合は、施工事例の写真だけでなく、現場のちょっとした裏側を写した動画や、職人の日常を切り取ったリール動画なども投稿していた。それが意外と反応が良かったのだ。
「Instagramは、その日のお弁当のメニューとか、たまに夫が作った特別なおかずの写真を載せたりしています。あとは、季節のイベントのお知らせとか…」
真紀はそう答えながら、少し困ったような顔をした。
「お店で、特別な集客の取り組み、ですか……。正直、そこまで手が回っていなくて。お客さんが来てくれるのを待つばかり、という状態ですね」
「なるほど…。僕の工務店の場合は、施工事例の写真を工夫したり、あとはちょっと引っかかるような楽しいリール動画を投稿したりしていました。…というか、それは美咲が投稿していたので、真紀さんも見てくださってますよね?」
健太は途中で気づき、少し照れたように付け加えた。美咲が熱心に工務店のInstagramを更新していることは、ママ友の間でも知られているはずだ。
「ええ、見てます見てます! 面白いですよね、職人さんの素顔が見えたりして。あれ、健太さんご自身も出てたり…」
真紀は少し顔を綻ばせた。
「はは、たまにですが。でも、あれ、ただ適当にやっているわけじゃなくて、一応、何かしらのコツはあるみたいですよ。どんな投稿がどういう層に響くかとか、どうやったら見てもらえるかとか。僕も詳しいことは一平任せなんですけど」
健太は、一平が常々口にしていた「Webマーケティングには意図がある」という言葉を思い出した。単に写真をアップするだけではない、戦略的な意味合いがあるのだ。それを真紀にどう伝えればいいか、健太は考えを巡らせた。







