一平は、大輝との話が一区切りついたところで、真紀の弁当店のことを切り出した。
「ところで大輝、今日、帰りにちょっと寄っていってほしい場所があるんだ」
「ほう? どこですか?」
「駅前にある『まごころ弁当』って店だ。俺の友人の奥さんの友人なんだが、今、ちょっと経営で困っていてな。俺も少しアドバイスしてるんだ」
一平は、真紀がフレンチレストランで修行した夫を持つこと、そして今は普通の弁当店として経営が厳しくなっていることなど、核心に触れない程度に背景を簡潔に伝えた。
「そこでだ。お前には、お客さんとして店を覗いていってほしい。そして、何か自然な会話の中で、『ポップアップストアとかやらないんですか?』って、それとなく聞いてみてほしいんだ」
大輝は、一平の意図をすぐに察したようだった。彼の専門は動画とSNS。ポップアップストアは、SNSでの告知と組み合わせることで、大きな集客効果を生み出す可能性を秘めている。
「なるほど、SNSと連動させて、期間限定で特別な弁当を出すとか、そういう方向性ですね?」
「ああ。彼女の夫はフレンチの腕があるんだが、それを活かしきれていない。店舗だけで集客するのは厳しい状況だから、SNSの力と期間限定のイベントを組み合わせることで、新しいお客さんにアプローチできるんじゃないかと考えている」
一平は、具体的な戦略の意図を伝えた。これは、健太が真紀に提案した「ちょっと良いフレンチ弁当」のアイデアを、大輝の専門知識でさらに具体化するための布石だった。
「承知しました。店員さんとお客さんの距離感を保ちつつ、自然な感じでそれとなく聞いてみますよ」
大輝はニヤリと笑った。彼のプロとしての嗅覚が、新たな面白そうな案件の予感を捉えたようだった。二人はベンチから立ち上がり、それぞれの目的地へと歩き出した。一平の頭の中では、真紀の弁当店の再生に向けた次なる戦略が、少しずつ形になり始めていた。







