「……で、それが何なんだ?」
俺は、絞り出した自社の強みを一平にぶつけた。地域密着、迅速な対応、小さな仕事も厭わない姿勢。そして、何よりも「真面目で丁寧な仕事」。頭の中では整理できたつもりだが、それが具体的にどう俺の会社の打開策につながるのか、いまいちピンとこなかった。
一平は、俺の質問に焦れることもなく、ゆっくりと頷いた。
「それが何かって? それが、健太、お前の工務店の『核』だ。USP、ユニーク・セリング・プロポジション。他社にはない、お前だけの独自の強み、価値のことだ」
「USP……。それが、そんなに大事なのか?」
俺は眉間に皺を寄せた。横文字はどうも性に合わない。
「ああ、とてつもなく大事だ。考えてみろ、健太。今、この町に工務店はいくつある? お客さんは、その中からどうやってお前の工務店を選ぶんだ?」
一平の問いに、俺は言葉に詰まった。確かに、工務店は星の数ほどある。値段が安いのか? 大手の安心感か?
「そこなんだよ。多くの工務店は、自分たちの強みを明確にできていない。だから、『どこに頼んでも一緒』だと思われてしまう。でも、お前んとこは違う。お前が今、言語化したその強みこそが、他社との差別化のポイントになるんだ」
一平は、さらに言葉を続けた。
「例えば、『地域密着で、どんな小さな困り事にも迅速に対応する工務店』。これは、単に『リフォームできます』というより、お客さんにとってずっと分かりやすいし、心に響くはずだ。高齢者が増える中で、ちょっとした不便を解消したいというニーズは確実に増えている。そこに対して、『真面目で丁寧な仕事』というお前の強みが加われば、安心感と信頼感を与えることができる」
俺は、一平の言葉を聞きながら、少しずつ理解が深まっていくのを感じた。
「でも、それがWeb集客とどう関係するんだ?」
俺が尋ねると、一平は俺の目を見て言った。
「深く関係する。Web集客は、ターゲットとなる顧客に、お前の工務店の存在と、その価値を伝えるための『手段』だ。USPが明確になっていれば、誰に、何を、どう伝えるべきかがはっきりする。ホームページの内容も、SNSの投稿も、すべてそのUSPに基づいて作ることができるんだ」
一平は続けた。
「例えば、お前が『迅速な対応』を強みとするなら、ホームページには『緊急対応24時間受付』と大きく打ち出す。小さな仕事も引き受けるなら、『電球一個の交換からお気軽にどうぞ』と伝える。そして、SNSでは、実際に迅速に対応した事例や、お客様の感謝の声なんかを投稿していく。そうすれば、お客さんは『この工務店は、私が困った時にすぐに来てくれるんだな』『こんな小さなことでも頼めるんだな』と理解し、安心して問い合わせてくるようになる」
俺は、目から鱗が落ちるような感覚だった。これまでバラバラだった点が、線でつながっていくような感覚だ。
「なるほど……。じゃあ、俺たちが今までやってきたこと、つまり真面目に丁寧に仕事をしてきたこと自体が、Web集客の『ネタ』になるってことか?」
俺がそう問いかけると、一平は満足げに頷いた。
「その通りだ、健太。お前がこれまで培ってきたものが、これからのWeb集客の土台になる。あとは、それをどうやって、ターゲットとするお客さんに効果的に届けるか、だ」
一平の言葉に、俺の心に希望の光が差し込んだ。漠然としていたWeb集客が、少しだけ具体的な形を帯びてきたような気がした。
霧深き夜に見た繊月 ― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略(目次)
参考