迷惑メールの対処法を学び、コンテンツ配信も再開した頃、健太の妻が運営している工務店のInstagramアカウントに、少しずつ変化が表れ始めていた。
「ねえ、健太。最近、フォロワーが増えてるみたい」
ある日の晩、夕食の準備をしながら妻が嬉しそうに言った。以前は「虚しい」とこぼしていたInstagramだが、一平のアドバイスを受けて、ターゲット層に響くような、役立つ情報や日常の様子を低頻度ながらも投稿し続けていた。健太も、たまに現場の写真を撮って妻に渡すようにしていた。
「そうか。それは良かったな」
健太は素直に喜んだ。すぐさま集客に直結するわけではないが、少しずつでも手応えを感じられるのは嬉しいことだ。
そんな矢先、娘のひまりの幼稚園のお迎えに行った妻が、興奮気味に帰ってきた。
「健太、聞いてよ! 今日、ひまりのママ友の真紀さんと話してたらね、うちのインスタのこと、すごいって言われたのよ!」
真紀さんというのは、ひまりの幼稚園の同級生のママ友で、ご夫婦で弁当屋さんを営んでいると聞いている。以前、健太がInstagram集客を始めた頃、その真紀さんが「インスタで集客に成功した人がいる」と噂話をした相手だが、実はそれは誤解で、真紀さん自身も集客に苦労していることは知っていた。
「真紀さんが? 何て言ってたんだ?」
健太は手を止めて、妻の顔を見た。
「真紀さんも、お店のインスタをやってるんだけど、全然フォロワーが伸びなくて困ってるって。でも、うちのアカウントのフォロワーが最近増えてるのを見て、『どうしてそんなに増えるんですか!?』って、すごく興味津々だったのよ!」
妻は、まるで自分のことのように得意げに話す。俺たちの工務店のInstagramは、まだまだ大成功とは言えないが、それでも、ゼロから少しずつ積み上げてきた努力が、誰かの目に留まり、評価され始めているのだ。
「それで、どうしたんだ?」
「『健太が詳しいから、今度教えてあげてほしい』って言われたんだけど、どうする? 健太、忙しいのに……」
妻は、健太の顔色を窺うように言った。弁当屋さんのInstagram。俺たちの工務店とは業種が違う。だが、もし俺たちの経験が、真紀さんたちの役に立つなら。そして何より、これも何かの縁だ。
「いいよ。もし困ってるなら、俺にできることがあれば力になりたい。別に俺が直接教えるわけじゃない。一平に教えてもらったことを伝えるだけだ」
健太はそう答えた。あの時、一平が自分に手を差し伸べてくれたように、今度は自分が、誰かの手助けができるかもしれない。Web集客の知識は、この数ヶ月で確かに身についてきていた。
それは、一平が自分に「考える力」をつけさせてくれたおかげだ。俺たちの「Web集客物語」は、少しずつ、周囲にも波及し始めているのかもしれない。