「健太、お前の言う通り、俺は別に昔からWebの専門家だったわけじゃない。でもな、一つだけ、他の奴らより少しだけ早く始めていたことがある」
一平は、どこか懐かしむように、遠い目をして話し始めた。
「実は、小学校高学年くらいの頃から、インターネットには触れてたんだ。当時はまだ、今みたいにスマホなんてなくて、パソコンでダイヤルアップ接続して、ピーヒョロロって音立てながら繋ぐ時代。友達と、掲示板とかチャットとか、色々試してたんだよ」
意外な過去に、俺は思わず身を乗り出した。あの体格で、まさかそんな根暗な少年時代があったとは。
「そして、中学からバンドを始めてからは、もう夢中だった。高校生になると、自分たちのバンドのホームページを作ったりもしてたんだ。無料のホームページ作成ツールとか、CSSをいじったりして、見よう見まねでな。ライブの告知をしたり、音源を載せたり。今思えば、それが俺のWebの原体験かもしれない」
なるほど、一平のWebに関する知識のルーツはそこにあったのか。単に知識があるだけでなく、実際に自分で手を動かしてきた経験があるからこそ、その言葉には説得力があるのだ。
「でも、俺の基本は、あくまで営業なんだ。Webマーケティングの仕事をしている今も、その根っこは変わらない。俺の先輩が言ったように、営業は『お客の課題を見つけて、それを解決する仕事』だ。だとしたら、その営業活動を、もっと効率良く、もっとスムーズにするのが『マーケティング』だと俺は考えてる」
一平は、立ち上がり、ホワイトボードに大きく「営業」と書き、その周りに矢印を書き足した。
「つまり、お客さんが抱えている漠然とした悩みや課題を明確にし、解決策を示し、最終的に『ここにお願いしたい』と思ってもらうまでのプロセスをデザインするのがマーケティングだ。そして、それをインターネット上で実現するのが、『Webマーケティング』なんだよ」
その言葉は、俺の胸にストンと落ちた。Web集客とは、ただホームページを作ったり、広告を出したりするだけの話ではない。それは、お客さんとの出会いから、信頼関係を築き、契約へと導く、一連の営業活動そのものなのだ。そして、その活動をWebというツールを使って、より多くの人に向けて、より効率的に行うのがWebマーケティングなのだと。
「だから健太、お前の工務店のWeb集客も、ただアクセス数を増やすだけじゃない。お前の工務店の魅力を伝え、お客さんの悩みを解決し、最終的に健太に仕事を任せたいと思わせる。そのための道具が、Webなんだ」
一平の言葉は、これまでの俺のWeb集客に対する漠然としたイメージを、より具体的なものへと変えてくれた。Webは、単なる技術ではなく、営業の強力なパートナーなのだと。俺の工務店の未来が、少しずつ、だが確かに見えてきた気がした。