霧深き夜に見た繊月

霧深き夜に見た繊月― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略


ユウキは、いつも通り朝一番で自社のWebサイトの検索順位をチェックしていた。彼にとって、これは毎日のルーティンであり、自身の敏腕ぶりを確認する儀式のようなものだ。キーワードは「地域名 工務店」や「注文住宅 地域名」といった、まさに自社の得意分野を示すもの。これまで、彼らのサイトは常に上位を独占し、たまに現れる新規参入の小さな工務店は、すぐに姿を消していった。

第一章 第三十六話|霧深き夜に見た繊月


一平との二人三脚のWeb集客戦略は、着実に成果を上げ始めていた。俺がコツコツと積み重ねてきたWordPressサイトのコンテンツは、ただのブログ記事ではなかった。それは、一平が語った「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の両方に語りかけ、そして「熟考型」の客に信頼感を与えるための、計算された情報発信だった。 その努力が、目に見える形で現れ始めた。Googleで「地域

第一章 第三十五話|霧深き夜に見た繊月


一平の話を聞いて、俺はWeb集客に対する認識を大きく改めた。その新しい視点から見ると、以前の自分がいかに表面的な部分ばかりを見ていたかがよくわかる。 「なるほど……。一平の言う通りなら、俺が昔、知り合いの社長に勧められて、相見積もりサイトでホームページ制作を頼もうとした時も、危なかったってことか?」 俺は、ふと思い出して尋ねた。当時、複数の業者から格安の提案

第一章 第三十四話|霧深き夜に見た繊月



「だから健太、俺は『ホームページ制作』だけを売りにしている会社は、正直ダメだと思ってる」 一平は、話を続けた。彼の言葉は、俺のWeb集客に対する考え方を、根底から揺さぶっていく。 「今までの話を聞けばわかるだろう? Webマーケティングってのは、単に綺麗なホームページを作るだけの話じゃない。Webデザインなんてものは、その一要素でしかないんだ」 「でも、俺も

第一章 第三十三話|霧深き夜に見た繊月


「健太、お前の言う通り、俺は別に昔からWebの専門家だったわけじゃない。でもな、一つだけ、他の奴らより少しだけ早く始めていたことがある」 一平は、どこか懐かしむように、遠い目をして話し始めた。 「実は、小学校高学年くらいの頃から、インターネットには触れてたんだ。当時はまだ、今みたいにスマホなんてなくて、パソコンでダイヤルアップ接続して、ピーヒョロロって音立て

第一章 第三十二話|霧深き夜に見た繊月


「潜在ニーズを掘り起こし、熟考型に信頼感を与える。それが次のステップだ」 一平の言葉を聞きながら、俺は改めてWeb集客の奥深さを感じていた。同時に、一平がなぜこれほどまでにWebマーケティングに詳しいのか、彼の過去に興味が湧いた。 「一平ってさ、昔からそんなにWebに詳しかったのか?」 俺が尋ねると、一平は豪快に笑った。 「はは、そんなことはない。昔は、中学

第一章 第三十一話|霧深き夜に見た繊月



「ニーズが顕在化している層と、そうじゃない層。それぞれに合わせたメッセージが必要になる」 一平は、ホワイトボードに二つの円を描きながら説明を始めた。片方の円には「顕在層」、もう片方には「潜在層」と書かれている。俺は、その言葉を食い入るように見ていた。リスティング広告が顕在層に効くのはわかったが、それ以外の層にどうアプローチするのか。 「健太、お前のWordP

第一章 第三十話|霧深き夜に見た繊月


「なあ、一平。リスティング広告なんだけどさ」 ある日のオンライン会議で、俺は疑問をぶつけた。 「LPのおかげで受注には繋がったのは嬉しいんだが、その後、広告費を倍にしても、そこから先がなかなか伸びない。どうしてなんだ?」 リスティング広告は順調だと感じていたが、実際に広告費を増やしても、期待したほどの効果は見られなくなっていた。まるで壁にぶつかったような感覚

第一章 第二十九話|霧深き夜に見た繊月


その日の晩、健太は食卓で、美咲に一平から聞いた話を伝えた。 「一平が言うには、真紀さんのところ、インスタだけにこだわる必要はないらしい。弁当屋なら、Googleマップの『MEO』ってやつに力を入れた方がいいって言ってた」 「MIO? なにそれ?あ、MEO?」 美咲は首を傾げた。専門用語に慣れない美咲には、いまいちピンとこないようだった。健太もまだMEOの全て

第一章 第二十八話|霧深き夜に見た繊月



幼稚園の行事が終わり、ひまりの手を引いて帰ろうとしていた美咲。そこに、真紀さんが小走りで追いついてきた。 「ねえ、ひまりちゃんママ! この前話してたインスタのことなんだけど、もう少し詳しく聞かせてもらえないかな? 実は、うちのお店もWeb集客にすごく悩んでて……」 真紀さんの顔は、真剣そのものだった。Instagramのフォロワーが増えているという話を聞いて

第一章 第二十七話|霧深き夜に見た繊月


「健太。お前がそう感じるのも無理はない。だが、諦めるのはまだ早い。ここからが、本当の勝負なんだ」 一平の言葉は、俺の沈んだ心に、再び火を灯そうとしてくれているようだった。 「本当の勝負って、どういうことなんだ、一平?」 俺が問いかけると、一平はパソコンの画面に何かを表示させながら、ゆっくりと説明を始めた。 「健太、お前はこれまで、リスティング広告とLPで、あ

第一章 第二十六話|霧深き夜に見た繊月


新しいWordPressサイトが公開されてから数ヶ月。一平が施してくれた迷惑メール対策のおかげで、問い合わせフォームは正常に機能するようになった。Analyticsでアクセス数も確認できる。しかし、期待していたような、ホームページからの直接的な新規顧客獲得には、まだつながっていなかった。 「うーん……」 俺は、パソコンの前で唸っていた。コンテンツ制作も、行き

第一章 第二十五話|霧深き夜に見た繊月



「まさかあいつが……。いや、それはないか」 Search Consoleの異変について相談した後、電話を切った一平は、パソコンの画面に映る健太の工務店のサイトを眺めながら、独りごちた。悪質なリンク攻撃。この手口を知っている人間はそう多くない。そして、最も恩恵を受けるのは、競合だ。 一平の脳裏に、高校時代のユウキの顔が浮かんだ。 ユウキは、高校時代から目立つ存

第一章 第二十四話|霧深き夜に見た繊月


「頼む、一平! どうすればいいんだ!?」 俺の切羽詰まった声に、一平は落ち着いた声で答えた。 「大丈夫だ、健太。まずは原因を特定する。Search Consoleのデータを見る限り、これは外部からの悪質な攻撃、いわゆるネガティブSEOの一種だろう。お前のサイトの評価を意図的に下げようとしているんだ」 一平の言葉に、俺は怒りがこみ上げてきた。せっかく順調に進み

第一章 第二十三話|霧深き夜に見た繊月


オンライン会議が始まり、俺は切り出すタイミングを見計らっていた。ホームページのリニューアルも順調に進み、LPからの集客も安定してきた。今話すべきは、真紀さんのことだ。 「なあ、一平。この前、うちの妻のママ友の弁当屋さんが、うちのインスタのフォロワーが伸びてるって、興味を持ってくれたんだ」 俺がそう切り出すと、一平は少しだけ眉を上げた。 「へえ、それはまた意外

第一章 第二十二話|霧深き夜に見た繊月



迷惑メールの対処法を学び、コンテンツ配信も再開した頃、健太の妻が運営している工務店のInstagramアカウントに、少しずつ変化が表れ始めていた。 「ねえ、健太。最近、フォロワーが増えてるみたい」 ある日の晩、夕食の準備をしながら妻が嬉しそうに言った。以前は「虚しい」とこぼしていたInstagramだが、一平のアドバイスを受けて、ターゲット層に響くような、役

第一章 第二十一話|霧深き夜に見た繊月


高層ビルのオフィスで、ユウキはパソコンの画面を食い入るように見ていた。そこには、健太の新しいWordPressサイトが表示されている。以前のサブスクのホームページとは比べ物にならないほど、洗練されたデザインだ。 「ほう……。なかなかやるじゃないか、健太」 ユウキは、口元に薄い笑みを浮かべた。LP運用で利益を出し、その資金で本格的なホームページを構築した。着実

第一章 第二十話|霧深き夜に見た繊月


「なあ、一平。新しいホームページから、やたらと営業メールとか迷惑メールが来るんだが、これ、どうにかならないか?」 オンライン会議で、俺は早速、新たな悩みを一平にぶつけた。せっかく作ったホームページから、大事な問い合わせが埋もれてしまうのは困る。 一平は、俺の言葉を聞いて、少し驚いたような顔をした。 「ほう、もうそんなに来るようになったか。それは、サイトが注目

第一章 第十九話|霧深き夜に見た繊月



小旅行から戻って数日後、俺は一平に、これまで温めてきたWordPressサイトの具体的な内容をメールで送りつけた。LPで使った強みや、顧客へのメッセージ、そして写真素材も全て添付した。 「これまでのLPの経験を活かして、まずはスモールスタートでいい。後からページを追加していけるのがWordPressの強みだからな。まずは、最低限必要なページで公開して、軌道に

第一章 第十八話|霧深き夜に見た繊月


一平にホームページのリニューアルを依頼してからというもの、俺の心はどこか落ち着かなかった。これまでの人生で、こんなにも大きな決断をしたことはない。父の工務店を継いだ時も、それは自然な流れで、自分の意志というよりは、周りの期待に応えるようなものだった。 父はどうやって仕事を獲得してきたのだろうか? 俺が物心ついた頃には、いつも父は忙しそうにしていた。電話が鳴り

第一章 第十七話|霧深き夜に見た繊月


しばらくして、一平が俺の事務所にふらりと遊びに来た。オンラインでのやり取りばかりだったから、顔を合わせるのはずいぶん久しぶりだ。 「よお、健太。調子はどうだ?」 一平は、変わらない飄々とした態度で、事務所を見回した。以前の重苦しい雰囲気は薄れ、どこか活気が戻ってきたように感じる。これも、LPからの受注が増え始めたおかげだろう。 「おかげさまで、なんとかやって

第一章 第十六話|霧深き夜に見た繊月



「なあ、一平。これで一時的に客が増えたとしても、この先、ずっとこれでやっていけるのか?」 オンライン会議で、俺はリスティング広告の開始を前に、一平に素朴な疑問をぶつけた。短期的に客が増えるのはありがたいが、それがこの工務店の根本的な解決になるのか、不安だった。 一平は、俺の問いかけに満足げに頷いた。 「いい質問だ、健太。その通り、一度受注した客との接点を保つ

第一章 第十五話|霧深き夜に見た繊月


LP制作の依頼先が決まってからというもの、俺は業者とのやり取りに追われる日々だった。デザインの打ち合わせ、写真の選定、文章の推敲。正直、慣れない作業の連続で、何度も投げ出したくなった。だが、そんな俺を支えてくれたのは、他でもない一平の存在だ。 「健太、ここの言い回しは、もう少しお客さんの目線に立って考えた方がいいな」 「この写真、もう少し明るく補正できるか?

第一章 第十四話|霧深き夜に見た繊月


「健太、LPの内容、見せてくれ」 オンライン会議が始まり、一平はさっそく俺が作成したLPの構成案と、自分で撮った写真データを確認し始めた。俺は、緊張しながらも、自分が考え抜いた内容を説明した。 「このトップページで、まず俺たちの強みを大きく打ち出して、その下に、具体的なサービス内容を載せて……。で、ここには、このバリアフリー改修の写真を使いたいと思ってて……

第一章 第十三話|霧深き夜に見た繊月



蛍光灯が瞬く事務所で、俺は慣れないパソコン作業の合間に、ふと手を止めた。窓の外は、もうすっかり暗くなっている。娘はもう寝ただろうか。妻は今日も、俺の不甲斐なさにため息をついているかもしれない。 俺の人生は、いつも誰かの後を追うようにして進んできた気がする。高校を卒業して、特にやりたいことも見つからず、成り行きで親父の工務店を継いだ。親父は腕のいい職人だったが

第一章 第十二話|霧深き夜に見た繊月


「じゃあ、健太。一週間後にまたオンラインで話そう。それまでに、LPで何を伝えるか、具体的に考えておいてくれ。業者選びについても、いくつか調べておくといい」 一平はそう言って、オンライン会議を締めくくった。俺は、一平の言葉を胸に、さっそくLPの内容を考え始めた。素人なりに、これまで一平から教わったUSPの重要性や、ターゲット顧客のニーズを意識しながら、紙に書き

第一章 第十一話|霧深き夜に見た繊月


「そうか。それなら、俺にもできそうだ」 俺は、一平の提案にわずかな希望を見出し、ようやく光が見えたような気がした。だが、すぐに新たな疑問が頭をもたげる。 「なあ、一平。俺が今契約してるサブスクのホームページ業者なんだが、ページを一枚追加するだけでも結構な金を取られるんだ。たしか、一枚追加で5万円とか言われた気がする。普通のWeb制作会社より4倍も5倍も高く設

第一章 第十話|霧深き夜に見た繊月



夜、事務所の蛍光灯の下で、俺は腕を組み、唸っていた。一平とのオンライン会議まであと数時間。ホームページの改善策について、自分なりに考え抜いたことをまとめた資料を前に、何度も読み返す。 素人なりに、USPを意識して、サービスの具体的な内容やお客様の声を載せるページ、問い合わせフォームの改善などを盛り込んだ。これだけやれば、きっと客は増えるはずだ。 意を決して、

第一章 第九話|霧深き夜に見た繊月


「で、健太。今、使ってるホームページはどんな感じなんだ?」 一平はそう言って、俺の事務所の隅に置かれた古びたデスクトップパソコンに目をやった。 「ああ、これなんだが……」 俺はパソコンの電源を入れ、ブラウザを立ち上げた。表示されたのは、1年前に業者に作ってもらった、月額1万円のサブスクホームページだ。テンプレートをそのまま使ったようなデザインで、内容も薄っぺ

第一章 第八話|霧深き夜に見た繊月


「……で、それが何なんだ?」 俺は、絞り出した自社の強みを一平にぶつけた。地域密着、迅速な対応、小さな仕事も厭わない姿勢。そして、何よりも「真面目で丁寧な仕事」。頭の中では整理できたつもりだが、それが具体的にどう俺の会社の打開策につながるのか、いまいちピンとこなかった。 一平は、俺の質問に焦れることもなく、ゆっくりと頷いた。 「それが何かって? それが、健太

第一章 第七話|霧深き夜に見た繊月



オフィスビルからの帰り道、ユウキは夜風に吹かれながら、ぼんやりと過去を思い出していた。Webマーケティングの世界は、ここ10年から15年で劇的に変化した。まさに激動の時代だった。 「被リンク時代、か……」 かつては、どれだけ多くのサイトからリンクを貼られるかが、SEOの肝だった時代があった。質より量。被リンクさえ集めれば、検索エンジンの上位表示は容易だった。

第一章 第六話|霧深き夜に見た繊月


夜の帳が下りたオフィスで、俺は高層ビルの窓からきらめく町の光を見下ろしていた。俺の名前はユウキ。元ホストという異色の経歴を持つが、今ではこの地域のWeb集客を牽引する、と自負している。健太と同じ業界。俺の会社は、ここ数年で破竹の勢いで成長を遂げた。 「ハハッ、健太のところも、ようやく重い腰を上げたか」 パソコンの画面には、健太の工務店のSNSアカウントが表示

第一章 第五話|霧深き夜に見た繊月


「なるほどな……。健太、お前んとこの顧客は、どんなことで困って、お前に何を期待して依頼してくるんだ? そして、お前は、その期待にどう応えてきたんだ?」 一平の問いは、俺の頭の中を整理していくようだった。俺は、これまで漠然とやってきた仕事のやり方や、顧客との関係性を、初めて客観的に見つめ直すことになった。 「そうだな……。例えば、急な水漏れとか、ドアの建て付け

第一章 第四話|霧深き夜に見た繊月



「甘く見ていた、か……」 俺は一平の言葉を反芻した。否定する言葉は出てこない。まさにその通りだった。Web集客という言葉の響きに、安易な成功を夢見ていたのかもしれない。 「ああ、甘いぜ、健太。 Web集客は魔法じゃない。それに、別にWeb集客にこだわる必要もないんだぜ。集客の方法なんて、いくらでもある」 一平はそう言って、事務所の窓の外に目を向けた。その言葉

第一章 第三話|霧深き夜に見た繊月


薄暗い事務所で、俺は腕を組み、重い溜息をついた。壁に貼られた昔ながらのカレンダーは、日付だけが無情に進んでいく。30代後半の男が、こんなにも手詰まりになるとは思わなかった。 娘は幼稚園の年長で、そろそろ小学校に上がる。あの子のためにも、この工務店を潰すわけにはいかない。 俺がこの工務店を継いで、もう2年以上になる。親父が築き上げてきたものを、俺がダメにするわ

第一章 第二話|霧深き夜に見た繊月


俺の名前は健太。この町で小さな工務店を営む、しがない中年だ。30代後半、とっくに若手とは言えない歳になったが、相変わらず現場で汗を流す毎日だ。昔は下請けの仕事でどうにか食いつないでいた。 だが、それも長くは続かない。長年つきあいがあった常連のじいさん、ばあさんたちが店を畳み始め、仕事はめっきり減った。新規の客なんて、ここ何年もご無沙汰だ。 藁にもすがる思いで

第一章 第一話|霧深き夜に見た繊月



夜のとばりが降りた町を、俺は一人、重い足取りで歩いていた。 今日一日の仕事を終え、事務所のシャッターを下ろしたばかりだ。 コンクリートのひび割れや、古びた木材の匂いが、まだ鼻腔に残っている。 父が残したこの工務店を継いで、二年。しかし、現実は容赦なかった。業績は上がるどころか、ジリ貧の一途を辿っている。 このままでは、どうなる? 娘のひまりは、もうすぐ小学校

序章|霧深き夜に見た繊月



ホームページ制作・カスタマイズ、Webマーケティング・SEOなどのお問い合わせ・ご依頼