幼稚園の行事が終わり、ひまりの手を引いて帰ろうとしていた美咲。そこに、真紀さんが小走りで追いついてきた。
「ねえ、ひまりちゃんママ! この前話してたインスタのことなんだけど、もう少し詳しく聞かせてもらえないかな? 実は、うちのお店もWeb集客にすごく悩んでて……」
真紀さんの顔は、真剣そのものだった。Instagramのフォロワーが増えているという話を聞いて、本格的に相談する気になったのだろう。美咲は、健太に言われた通り、具体的なアドバイスは避けつつも、Web集客の重要性や、投稿の工夫について話したという。だが、真紀さんの悩みは根深く、美咲一人では対応しきれないと悟った。
その晩、美咲は健太に相談してきた。
「健太。真紀さん、本当に困ってるみたい。一平さんに、ちょっとだけ相談に乗ってもらうことってできないかな? 健太の友達だから、無償で、少しだけでも……」
美咲の言葉に、健太は眉をひそめた。一平が親友である健太の相談に乗るのは別だ。だが、その妻の友人となると話は変わってくる。
翌日、健太は一平に真紀さんの件を話した。
「なあ、一平。実は、うちの美咲のママ友が、Web集客で困っててさ。お前、何かアドバイスしてやれないか?」
一平は、俺の話を黙って聞いていた。そして、いつものように冷静な口調で答えた。
「健太。お前の相談なら、いくらでも乗る。だが、彼女は、俺の会社の顧客ではない。普通に考えれば、それは俺の会社の通常のコンサルティング依頼になる。俺は慈善事業で会社をやってるわけじゃないし、親友の妻の友人だからといって、無償で相談を受け続けるわけにはいかないんだ」
一平の言葉は、ごもっともだった。俺も薄々そうだろうとは感じていた。
「それに、健太。俺が直接乗り込んでアドバイスをしてしまっては、彼女自身の自発的な意志や、自分で考える力が育たない。それはお前が経験したことだろう?」
俺は、一平の言葉に深く頷いた。まさに、自分が通ってきた道だ。
「だが、何も手助けできないわけじゃない。健太、お前から真紀さんに伝えてやってくれ。まず、Instagramに固執する必要はない、と。弁当屋なら、視覚的なアピールも重要だが、それ以上に重要な集客方法がある」
一平は、さらに続けた。
「もし、彼女の弁当店に公式サイトがあるなら、MEO(Map Engine Optimization)に力を入れてみてはどうか、と提案してやってくれ。弁当屋は地域密着型だ。お客さんは、まず『〇〇(地域名) 弁当』で検索したり、Googleマップで探したりするだろう。Googleマイビジネスの情報を充実させて、お客さんがお店を見つけやすくする。それが、弁当屋にとっては最も効果的なWeb集客の一つになる」
MEO。健太にとっては初めて聞く言葉だったが、弁当屋の集客には確かに理にかなっているように思えた。
「それで、もし、本格的にMEOや、その他のWeb集客について相談したいということであれば、俺の会社に正式に問い合わせをするよう伝えてくれ。その場合は、通常の業務として、うちの担当者が対応する。それが、お互いにとって一番良い形だ」
一平は、そう言って相談の道筋を明確に立ててくれた。あくまでもプロとしての線引きはしつつ、困っている人への助言は惜しまない。そして、相手の自発的な意志を尊重する。それが、一平のやり方なのだ。俺は、その言葉を真紀さんにどう伝えるか、頭の中で考え始めた。