2012年8月、Googleは検索アルゴリズムに新たな信号として「パイレーツアップデート」を導入しました。このアップデートは、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づき、著作権侵害の申し立てが多数寄せられているウェブサイトの検索順位を下げることを目的としたものです。すなわち、いわゆる違法なコンテンツ、特に海賊版の映画や音楽を提供するトレントサイトなどに対して、Google検索の光を当てないための仕組みが整えられました。
DMCAの有効な通知が積み上がったサイトに「ペナルティ」を適用する方式として機能し、Googleはこれにより海賊コンテンツへの誘導を抑制し著作権保持者の正当な権利を守ろうとしました
パイレーツアップデート適用の仕組み
GoogleはDMCAによる削除要請を専用フォームで受け付け、それを透明性レポートとして公開してきました。これらの要請が一定数を超えると、対象サイトは検索結果での露出が著しく低下したり、場合によっては検索インデックスから除外されることもあると考えられています。
また、自動補完機能から侵害関連のキーワードを排除したり、検索結果画面上で合法的なコンテンツの広告や購入手段を優先的に表示するなどUX面からの対策も導入されました
パイレーツアップデート当初の影響と業界からの反応
Searchmetricsによると、パイレーツアップデートの適用対象となったサイトは視認性が最大で98パーセントも低下するケースもありました。具体例としては、ThePirateBayやIsoHunt、Torrentzなどの大手トレントサイトが大きな影響を受けたとの報告がありました。
しかし一方で、音楽業界団体RIAA(アメリカレコード協会)は、このアップデートが実際には海賊サイトの検索順位に対して大きな影響を及ぼしていないと非難しました。調査によれば、100,000件を超える削除要請を受けたサイトすら検索結果の第一ページに引き続き表示されるケースが98パーセントを超えていたと指摘されたようです。
映画協会MPAAも同様に、Googleのアップデートが実質的に海賊行為を減少させていないと批判しました。MPAAの調査では、違法コンテンツへのリンクのうち82パーセントがGoogle経由で見つかったと報告され、Googleの取り組みには成果が見られないとの見解を示しました。
パイレーツアップデート更新の推移と運用状況
初回の実施が2012年8月であったのに対し、Googleは2014年10月に二回目の「パイレーツアップデート」を実施しました。これは既存の違反サイトを再評価し、改善が見られたサイトは検索順位を回復できるよう調整されたとも伝えられています。
それに加え、Googleはより頻繁にこのフィルターをアップデートする体制へ移行しつつあるとも報じられており、それにより違反修正の効果が早く反映されるようになっています。
SEOへの啓示と今後への展望
合法的なサイト運営者にとってこのアップデートから得られる最大の教訓は、著作権に配慮したコンテンツ運用がSEOの根幹であるということです。DMCA要請が積み上がることは企業にとって死活問題であり、削除要請のリスクを事前に抑えるコンプライアンス体制の構築が重要となります。
また、このアップデートはただ違法コンテンツ排除に留まらず、検索結果において正規の購入方法や公式な情報への導線を強化する方向性を示唆しています。結果として、ユーザーにとっては安心して利用できる検索体験が提供されるようになり、SEOの領域にもユーザーファーストな設計の重要性が色濃く反映されたといえるでしょう。
パイレーツアップデートはGoogleが検索エンジンとしての社会的責任を自覚し、著作権侵害への対応をアルゴリズムに組み込んだ重要な施策でした。導入当初は海賊サイトへの視認性低下という現象を示したものの、その効果と制度の有効性には業界から厳しい視線も注がれました。それでも、コンプライアンス重視のサイト運営とユーザーの安全志向が検索体験において優先されるという流れは明確に強化されたといえます。
