ページエクスペリエンスアップデートは、Googleが検索ランキングの評価に「ユーザーがページを実際に利用したときの体験」を明確に取り込んだ一連の施策を指します。2020年に段階的に発表され、2021年6月に本格的に導入されたこの枠組みは、従来の関連性やコンテンツ品質に加え、ページの表示速度、視覚的安定性、インタラクションの応答性、モバイル適合性、HTTPSの有無、侵入的なインタースティシャルがないことなどの要素を総合して「ページ体験」を評価することを明確にしました。Google はこの取り組みを通じて、検索結果におけるユーザーの満足度を高めることを目的としており、導入時の公表内容もその方針を強く示しています。
その後、2022年2月22日にPC版検索(デスクトップ検索結果)にも同等に反映されるようになりました。モバイル特有の「モバイル対応性」はPC版には適用されない一方、他の要素は完全に一致する仕組みとなり、PC版ページにおいてもファーストビューの読み込み速度や視覚の安定性、相互操作性といった体験の質が検索順位に影響することになりました。2022年3月3日にはロールアウトが完了したとGoogleが公式に発表しています。PC版はスマートフォン版の導入よりは格段に短い期間での実装となりました。
コアウェブバイタル(Core Web Vitals)
ページエクスペリエンスアップデートの中心となるのがコアウェブバイタル(Core Web Vitals)と呼ばれる一連の指標であり、これがページエクスペリエンス評価の定量的基盤となっています。Core Web Vitals は主に読み込みの速さを表すLargest Contentful Paint(LCP)、操作に対する応答性を示すInteraction to Next Paint(INP、以前はFirst Input Delayが用いられていましたが INP に置き換わりました)、そして視覚的な安定性を測るCumulative Layout Shift(CLS)の三指標によって構成されます。
これらは実際のユーザーの利用実態に基づくフィールドデータにより算出され、検索順位への影響は「関連性が同等のコンテンツ間での優位性付与」という役割を果たす形で設計されています。コアウェブバイタル(Core Web Vitals)の意味と評価の位置づけは Google の技術ドキュメントで詳述されています。
FIDからINPに置き換えられた経緯
FID(First Input Delay)からINP(Interaction to Next Paint)に置き換えられた経緯は、より複合的でリアルな「やりとり後の描画」を評価する必要性から来ています。FID は最初の入力に対する遅延のみを測っていましたが、ユーザー体験を総合的に判断するには「操作の完了に要する時間」を捉える方が適切だと判断され2024年に INP が公式にCore Web Vitals の一部となりました。これにより、応答性改善は単にイベントハンドラを短くするだけでなく、長時間走るタスクの分割やメインスレッド負荷の低減など、より広範な設計改善を要求するものとなりました。
コアウェブバイタルのデータソース
実運用上のコアウェブバイタルのデータソースとしては CrUX(Chrome User Experience Report)が中心的な役割を果たします。CrUX は実際の Chrome 利用者から収集されるフィールドデータの集合体であり、Search Consoleに表示されるコアウェブバイタル(Core Web Vitals)レポートのバックエンドにもこのデータが用いられています。したがってラボ環境での改善(Lighthouse 等)と実ユーザーの体験(CrUX)に差が出ることがあり、現場ではラボ計測と RUM(Real User Monitoring)を併用して改善方針を決める運用が必須です。CrUX とラボ指標の差異を理解した上で継続的に実データをモニタリングする体制を整備することが重要です。
Lighthouse、PageSpeed Insights、WebPageTest といったツールの活用
測定と診断に関しては、Lighthouse、PageSpeed Insights、WebPageTest といったツールの活用が標準的です。PageSpeed Insights はラボデータとフィールドデータの両方を提示し、改善ポイントと優先度を示すので、技術的な対処のロードマップ作成に便利です。一方でこれらはあくまで診断の入口であり、根本的な改善にはサーバー側、フロントエンド、ビルドプロセスの三方向からの構造的な見直しが必要になります。
コアウェブバイタルの具体的な改善方法
具体的な改善方法を技術的に整理すると、まずサーバー側では初回応答時間(TTFB)を短縮することが基本となります。CDN の導入、キャッシュ階層の最適化、データベースクエリや API の効率化、HTTP/2 や HTTP/3 の活用、TLS ハンドシェイクの最適化などが有効です。重要な表示要素が遅延なく配信されることは LCP 改善の王道でありサーバーからの応答が遅ければフロントエンドの最適化だけでは限界があります。
レンダリングパスの最適化としては、重要リソースの優先度付けとプリロード、重要な CSS のインライン化と非クリティカル CSS の遅延、ブロッキングスクリプトの defer/async 設定、そしてフォントの読み込み最適化(preload と font-display の併用など)を徹底することが挙げられます。これらはLCP の改善に直接寄与します。
LCP(Largest Contentful Paint)に対する具体的対策
Largest Contentful Paint(LCP)の改善は、Core Web Vitals の中でも特に重要な指標であり、検索結果での評価やユーザー体験に直接関わってまいります。LCPとは、ページの読み込みが始まってから最大のコンテンツ要素がユーザーの視界に描画されるまでの時間を指し、ヒーロー画像や動画のサムネイル、大きな見出しテキストなどが該当いたします。理想的には2.5秒以内で表示が完了することが推奨されており、それを超えると訪問者の離脱率が上昇し、SEO上の不利にもつながります。そのため、改善は避けて通れない課題といえます。
LCP(Largest Contentful Paint)に対する具体的対策として、まずどの要素がLCPとして計測されているかを特定することが必要です。Chrome DevTools のパフォーマンスタブや Lighthouse、PageSpeed Insights を利用することで対象要素を明らかにすることができます。トップページの画像の読み込みが原因の場合、ブラウザに事前読み込みを指示する preload をHTMLの head 部分に記述し、表示の遅延を防ぐ方法が有効です。また、JPEGやPNGをWebPやAVIFといった次世代フォーマットに変換することでデータ量を削減し、レスポンシブ対応によって不要に大きな画像の読み込みを避けることができます。さらに、エッジCDNを活用すれば、圧縮やリサイズを自動化し、配信距離を短縮することで高速化が期待できます。
LCP要素がテキストの場合
LCP要素がテキストの場合は、フォントとレンダリングが改善の焦点となります。Webフォントは読み込みが完了するまで文字が表示されないFOITの状態を避けるために、font-display: swap を設定し、事前読み込みを行うことで描画開始を早めます。また、ファーストビューに必要なCSSをインライン化し、それ以外は非同期で読み込むことでレンダリングブロックを最小化できます。
サーバー応答時間(TTFB)
LCPはサーバー応答時間(TTFB)にも影響を受けます。そのため、バックエンドの最適化は欠かせません。サーバー側でHTML全体をキャッシュし、CDNによってユーザーとの地理的距離を縮めることが推奨されます。さらに、データベースのクエリチューニングや不要なAPI呼び出しの削減によって、応答時間を短縮することが可能です。GoogleはTTFBを200ms以下に抑えることを理想としています。
不要なJavaScriptの削除と「deferやasyncの利用」
フロントエンドではJavaScriptの扱いにも注意が必要です。不要なライブラリは削除し、残す場合でもdeferやasyncを利用して実行タイミングを後ろにずらします。また、ファーストビューに不要なコードは分割して遅延読み込みすることで、レンダリングの開始を遅らせないようにします。
CSSや外部リソースは圧縮や結合
CSSや外部リソースは圧縮や結合を行いHTTPリクエストの数を減らすことも重要です。さらに、重要なリソースについては preconnectを用いてDNS解決を先行させて通信開始までの時間を短縮します。
画像とメディア
画像とメディアに関しては、レスポンシブ画像(srcset)や現代的なフォーマット(AVIF、WebP)への変換、適切なサイズおよび圧縮、ネイティブの遅延読み込み(loading=”lazy”)の利用などが効果的です。ただしファーストビューに表示されるヒーロー画像は遅延読み込みを避けるべきであり、必要に応じてプリロードすることが推奨されます。動画や iframe に関してもプレースホルダーを用意して遅延読み込みすることでレンダリングの安定性を保てます。
画像の非同期デコード「decoding=”async”」と遅延読み込み「loading=”lazy”」
INP(Interaction to Next Paint)に対する具体的対策
INP (Interaction to Next Paint)に対する具体的対策は、メインスレッドの仕事量を小さく保つことに尽きます。大きなスクリプトを分割して必要時にのみ読み込むペイロード削減、長時間タスクを小分けにする手法、Web Worker による計算オフロード、イベントリスナーの最適化とパッシブハンドラの活用が有効です。インタラクション時に UI が応答するまでの体験を改善するにはタスクごとの優先度管理とレンダリングブロッキングの徹底排除が求められます。
CLS(Cumulative Layout Shift)に対する具体的対策
CLS を抑えるためにはレイアウトに対する「事前予約」が重要です。画像や iframe、広告枠には幅と高さ、または CSS の aspect-ratio を明示しておき、フォント読み込みによるレイアウト移動には font-display を設定するなどの対策が考えられます。動的に挿入されるコンテンツはページの下部に追加する、あるいは挿入領域を確保してからコンテンツを描画することで視覚的なジャンプを防ぐことができます。広告については配信側と協調して占有スペースを予約する実装が不可欠です。
サーバーサイドレンダリング(SSR)や静的サイトジェネレーション(SSG)、エッジレンダリングの活用
モダンなアーキテクチャとしては、サーバーサイドレンダリング(SSR)や静的サイトジェネレーション(SSG)、エッジレンダリングの活用が検討に値します。SSR/SSG により初期描画を速めることで LCP が改善され、エッジでのキャッシュは地理的な遅延を減らします。さらに Service Worker を適切に設計すれば二回目以降の読み込みが劇的に速くなり実ユーザーの体験改善につながります。
組織的な実装としては、パフォーマンスを「プロダクト機能」として扱い、プロダクト、エンジニア、デザインチームが共同で性能要件(SLO)を設定し、CI にパフォーマンスチェックを組み込むことを推奨します。単発のチューニングで終わらせず、デプロイごとに性能の回帰が起きないかを自動で検知することで長期的に良好なページエクスペリエンスを維持できます。
単一コンテンツのSEO評価が低い場合でもも体験品質で優位に立てば検索上の露出を増やせる
SEO 的な含意としては、ページエクスペリエンスはコンテンツの関連性に優先して用いられることはないものの、同等の関連性を持つページ間では明確な差別化要因となり得ます。つまり、コンテンツで勝てない場合でも体験品質で優位に立てば検索上の露出を増やせるという実務的な意味があります。加えて、ページ体験の改善は直接的に離脱率やコンバージョンにも好影響を与えるため、SEO の枠を超えたビジネス価値をもたらすという点も見逃せません。
現場でよくある落とし穴について述べると、ツールのスコアに一喜一憂して単に Lighthouse の数値だけを追いかけるような対応は避けるべきです。ラボスコアと実ユーザーデータ(CrUX)にギャップがある場合、その原因を突き止める調査と恒久対策が重要であり、改善は短期の施策ではなく継続的な運用によって初めて定着します。パフォーマンスはコードの品質、運用体制、第三者サービスの管理など横断的な領域にまたがるため経営的な視点でも取り組みを支持することが大切です。
