Webマーケティングや一般的なマーケティングの分野で、あなたはペルソナマーケティングやペルソナの設定という言葉を耳にしたことはあるだろうか?
「効果的なマーケティングのためにはペルソナの設定は欠かせない」
「ペルソナの設定はWebマーケティングに必要な要素のひとつ」
マーケティング全般でこうした話題は所々で目にするだろう。
しかしどの情報も、本来の意味での、そして本質的な意味でのペルソナマーケティングとしては論理に欠陥があることが否めない。
誰かが書いた情報か、書籍を鵜呑みにして転載しているものがほとんどだからだ。
今回は、Webマーケティングや心理学としてのペルソナを抽象化して思考した上で、こうした「ペルソナマーケティング」の本質やWebマーケティングで設定しておくべき「ペルソナ」についてお伝えしていく。
その上で、ペルソナマーケティングを再定義し、そして最強の「ペルソナ設定」の方法論を提唱する。
「ペルソナ」と「マーケティング」に分解してペルソナマーケティングを再考する
ペルソナマーケティングを再考する上で、まず一般的に考えられているペルソナマーケティングについて触れた後、「ペルソナ」と「マーケティング」に分解して検討していこう。
このマーケティングに関しては、特にWebマーケティングに特化せず一般的なマーケティング全般に関して対象とする。
ペルソナマーケティング
まず、ペルソナマーケティングについての一般的な理解としては、「ペルソナとWebマーケティングの関係」で触れた様な、「モデル」の設定を行い、よりターゲットに近いマーケティング戦略や細かなマーケティング戦術を組み立てていくというものだ。
「ペルソナを分析して設定して、マーケティングに活かす」、とりわけ、「ペルソナを分析して設定して、Webマーケティング活動に活かす」ということを指すようですが、一般的解説は、ペルソナではなくモデルユーザーのことを指していると考えることができます。
いわばターゲットとして設定するモデルユーザーを事細かに設定していくことがペルソナの設定とされている。
ここでのペルソナとは、モデルとなる対象人物の年齢や性別、職業(業種や職種、役職を含む)、性格や趣味といった私生活のことまでなるべく仔細に分析して設定するものを指す。いわば想定における架空のユーザーといった位置づけであろう。
ペルソナのパターン
さらに具体的に考えれば、設定されるべきペルソナとしては、次のようなものが挙げられるだろう。
- 年齢層と世代的な風習
- 性別(男女)
- 職業(業種や職種、役職を含む)
- 家庭での役割や立ちふるまい
- 大まかな性格、交友関係、コスト意識など
- 趣味・嗜好
- ライフスタイル(行動時間や行動範囲を含む)、休日の過ごし方
- 地域性
- 情報収集方法(Web、マス4媒体、口コミなど)
Webマーケティングに特化した場合の「ペルソナ」
またWebマーケティングに特化して考えれば、「情報収集方法」についてさらに仔細に分解していくことができる。
趣味やライフスタイルの影響もあるが、大分類としては、PCとスマートフォン、それぞれの利用率を検討することもできる。
次に、Web検索の利用や、ポータルサイトの利用、ブラウザブックマーク等による特定サイトの利用、Facebook、X(Twitter)、Instagram、Google+(2019 年 4月個人向けサービス廃止)といったソーシャルネットワークの利用に加えて、はてなブックマーク、Pocketなどのオンラインブックマークサービスの利用なども検討される対象となるだろう。
また、ECサイトの利用によるオンライン購入、楽天やAmazonといったショッピングモールの利用、代金引換・銀行振込・クレジットカード決済といった商品購入代金の決済方法などもモデルによっては異なるだろう。
さらに、リスティング広告が向いているユーザー層なのか、ディスプレイネットワークが向いているユーザーなのか、商材によってのアフィリエイトサイトでの反応や、ソーシャル広告への反応なども検討の対象に入ると考えることができるだろう。
ペルソナとは?
ここまでは、一般的に考えられているペルソナマーケティングの概要について見てきたが、本質的な「ペルソナ」について、改めて確認してみよう。
この「ペルソナ」の意味については、「ウェブマーケティングにおけるペルソナとモデル」で、詳しく解説させていただいたが、基本的にこうした「ペルソナ」という用語の使用方法や、「ペルソナマーケティング」というネーミング自体が間違っている。
先ほどまで見てきたものは、一般的にペルソナマーケティングとさながらも、深い理解をしないまま「ペルソナ」と「モデル」を混同しながら誰かが提唱したものにすぎないからだ。
それでは、本来の意味でのペルソナについて再確認してみよう。
「ペルソナ」は仮面から心理学用語として派生した、「心理的仮面」、「外面的人格」のことを指します。この言葉を提唱したのは分析心理学で有名なユング博士です。社会的人格とも表現することができるでしょう。
ペルソナはもともと仮面という意味を持ちますが、狭義には舞台役者がつける仮面を意味しています。カール・グスタフ・ユング博士は、人間の他人と接する際に、役割を演じる心理的な仮面・外面的人格をペルソナと定義しました。
ペルソナ=外面的人格
例えば、配偶者と一緒にいる時、友人と一緒にいる時、仕事で同僚と一緒にいる時、仕事中でも取引先と一緒にいる時などそれぞれ、相手に見せる人格が少しずつですが異なります。
また、相手は同じ人でも、結婚式とお葬式の時の振る舞いの違いなど、時と場合によっては、見せる性格が異なるはずです。
自宅にいる時と、役職をもち、会社にいる時の人格は、ほとんどの場合異なるはずです。
人が一人でいる時と誰かがいる時では、振る舞いが変化し、誰かの前では「役を演じる」という側面を持っています。そういった本質的な根本人格以外の部分をペルソナと呼びます。
ペルソナとは、もともとラテン語で仮面を意味する単語だが、心理学の分野では、「人格」のうち「本質的な根本人格以外の部分」、つまり社会の中での役割に応じて演じている人格のことを指す。
すなわち、心理学用語としての「ペルソナ」は、個人的な内側の世界ではなく、外界に適応するために作り出す社会的・表面的な人格である。
ペルソナとは、自己の外的側面。例えば、周囲に適応するあまり硬い仮面を被ってしまう場合、あるいは逆に仮面を被らないことにより自身や周囲を苦しめる場合などがあるが、これがペルソナである。逆に内界に対する側面は男性的側面をアニマ、女性的側面をアニムスと名付けた。
全体的な人格を指すのであれば、それはパーソナリティであり、ペルソナではない。
先ほどまで見てきたペルソナマーケティングにおける「ペルソナの設定」の中には、「休日の過ごし方」や「趣味」などが含まれており、こうしたものの中には、単独で行動を取る場合もあり、他者との関わりの中で見せるペルソナの側面が表れない場合がある。
こうしたケースにおいては、本人の内界の側面であるアニマやアニムスに該当すると考えられるため、名称が「パーソナリティマーケティング」とされていれば、内界、外界での人格を包括するため、論理が成り立つが、「ペルソナマーケティング」という呼称であれば、社会的な役割を演じているときのみが該当するため、論理が成り立たない。
例えば、「ペルソナ」としては男勝りとされている女性であっても、一人のときは非常に女性的である場合がある。
こうした場合における「ペルソナとしての表面的な人格」に特化して、モデルを設定し、マーケティングに活かすのであれば、それはペルソナマーケティングと呼んで差し支えないだろう。
ペルソナについての参考文献
「自我と無意識」 カール・グスタフ・ユング著 松代 洋一 (翻訳), 渡辺 学 (翻訳)
ISBN-10: 4476012205 ISBN-13: 978-4476012200
(敬称略)
マーケティングとは?
一方ペルソナマーケティングにおける、「マーケティング」についておさらいしておこう。
マーケティングとは、企業などが行う「売れる仕組みづくり」だと考えてもらえればよいだろう。対象は物理的な製品や、無形のサービスまで多種多様だが、このページでは、「モノやサービスが消費者の手に届き、結果的に収益を得るための売れる仕組みや活動」を指し、営業や販売といった方法を問わず、間接的な広告や販促活動も全て複合して「マーケティング」と定義する。
マーケティングのイメージ
例えば、何でもありの市場(いちば)をイメージしてもらえればわかりやすいかもしれない。
人によっては商品を並べ、人によっては、市場の中を歩く人に声をかけて何かを売っているかもしれない。
物の販売だけでなく、靴磨きやマッサージをしている人もいるかもしれない。
商品を並べて販売している人が、自分の売り場が目立つようにと、ダンボールの裏にメッセージを書いて商品の横に置いたりする工夫をしだすかもしれない。
そうした人たちが行うすべての行動がマーケティング活動だ。
もっと細かなところになれば、市場の中を歩く人に声をかけている人が、「こういうタイプの人ならば自分の売り物と相性がいい」と考えることもマーケティング活動と言えるだろう。
男性用で、ある程度値が張る時計を売っているのならば、なるべくそうしたものに関心のありそうな男性に限定して声をかけていくだろう。
道行く女性に声をかけていけば、まれにパートナー用にと時計を購入してくれる人もいるかもしれないが、労力に対してあまり効率は良くないだろう。
こうした全ての売るための仕組みや活動に関する分野がマーケティングであるとイメージてもらって差し支えないだろう。
なお、Webマーケティングとは、そうした企業のマーケティングの中でWeb上で行われるマーケティング活動であるが、今回は割愛させて頂く。(参照 Webマーケティング)
ここで、「ペルソナ」についての定義と、マーケティングについての定義が揃ったので、一般的なペルソナマーケティングの問題点を洗い出しながら、私が提唱するペルソナマーケティングについてお伝えしていこう。
新しいペルソナマーケティング
先ほど、ペルソナマーケティングをもっと狭義に考えた場合、本来の意味での「ペルソナ」、つまりパーソナリティの中で外面的人格の側面に着目して考えれば、論理一貫性があるという旨を伝えた。
そこで、新しいペルソナマーケティング、マーケティングにおけるペルソナ設定を提唱したい。
パーソナリティ分析の上でペルソナの側面を抽出する
一般的なペルソナの設定は、パーソナリティの分析とモデル化であって、ペルソナではない。
自分たちのマーケティング対象、対象を事細かに想定して、それに合わせた商品、それに合わせたメッセージなどを考えることは、確かに合理的であると言えるだろう。
しかしながら、こうしたペルソナの設定は、本来の意味でのペルソナではないため、あくまでそれらのマーケティングでの有用性には着目しながらも、さらに分析を深めて検討していきたい。
ペルソナとは社会の中での役割に応じて表出される人格の側面であるため、そこに着目してみよう。
ペルソナマーケティング 事例 ① BtoB取引
例えば次のようなケースが考えられるだろう。
社長に依頼されて、業者を探している従業員がいくつかの対象をリストアップした。
この場合のペルソナ設定は、従業員の趣味や性格といった本質的な人格についての検討ではなく、「上司に依頼されて業者選びをする従業員」としてのペルソナの仔細な設定だ。
こうした中で表れる可能性のあるペルソナや本来の人格の影響を考えてみよう。
- その中で、本来の従業員の好みで言えばA社だが(本来の人格)、社長に依頼されているため、社長の好みを優先しB社を薦めることにした(社会的役割としてのペルソナの影響)。
- 自分の中ではA社だと考えているが、自分には決定権がないため、正直どこでもいい。どれも内容としてはそれほど突出しているわけではないが、自分のお金を出すわけでもないので、なるべく楽にリスト作成とプレゼン資料を用意したい。私ごとではないため、それほど気は進まないが、きちんと調べないと叱られるかもしれない(社会的役割としてのペルソナの影響)。
これをマーケティング活動で応用する場合を考えてみよう。
- 実際に調べているのは従業員だが、決定権がある人をモデルとして設定する。ホームページであれば、従業員の目にもとまり、かつ、経営者層に響きそうな内容の掲載が望まれるだろう。
- 本人の人格としては気乗りしていないが、情報の精査が役割として期待されているため、資料作りを楽にしたいという隠れたニーズがある。直接的なメッセージの他に決定権のある上司に報告しやすい資料を別で用意するなどの工夫が功を奏すかもしれない。
従業員の好みを考えるのも入口としては必要かもしれないが、ペルソナの影響を考える場合には、こうした社会的な立場を考慮する必要がある。
これが狭義のペルソナマーケティングである。
ペルソナマーケティング 事例 ② BtoC取引
また、BtoC取引において、次のようなケースが想定できる。
彼女の誕生日プレゼントを購入する男性
この場合は、パートナーとしての男性の立場だ。男性本人の好みの問題もあるが、もちろん細かくペルソナを設定する場合には、女性側の好みや、「相手の女性にどう見られたいか」という二人の間での互いの人格の認識や二人でいるときの空気感なども考慮する必要がある。そう考えると、交際期間なども考慮する必要があるだろう。
実際の購入者である男性の好みよりも相手の女性の好みや、二人の関係性が大きく影響する。
女性向け商品でありながら、プレゼント用として男性に購入されるという目的の商品設計をする場合は、女性の満足も考えながら、ターゲット層を限定し、さらに利用シーンを細かく設定して、男性に「プレゼント用として最適である」という旨を伝える必要があるだろう。
「自分用に、プレゼント用に」とだけ書かれた商品よりも、こうした男性側のペルソナの設定による利用シーンの限定があると、販売促進として効果的な場合もあると想定できる。
ペルソナマーケティング 事例 ③ 消費者向けサービスの深いペルソナ設定
また、消費者向けであれば次のようなケースも想定できる。
一般的な経済力でかつ、二世帯で生活し、姑と同居している専業主婦が「旅行」に行きたいと考えている
二世帯向けで専業主婦向けのペルソナの設定をする場合に、通常のペルソナの設定では、対象者のライフスタイルや日程的な面の設定に加え、こうした層を対象とした旅行プランを設定するに留まるだろう。
しかしながら、この事例では、本人の人格に合わせた旅行プランがいくらあっても、二世帯住宅での専業主婦という家庭での役割としてのペルソナがあるため、実際に申し込むことはケースとしては少ないかもしれないということをまず前提としておく必要がある。
もちろん、同じような年齢層であって、いわゆる「時間」と「可処分所得」があれば、通常のパーソナリティ分析でニーズを洗い出して、それに適したプランや見せ方をすれば十分だろう。
しかし、いわゆる「自分が自由に使えるお金もあまりなく、家事、子育てにも追われ、姑との関係あるためで『旅行に行きたい』とはなかなか言えない」という状況も想定できるだろう。
これは社会の中での役割としてのペルソナの影響だ。
本心や本来の人格としては、そうしたニーズがあっても、友人の前ではそうした話をしているケースもありつつも、日常ではペルソナの影響で無意識に抑圧され、場合によっては一切表面に出てこないケースも想定できる。
もしこうした深いペルソナの設定をした場合には、これに対応するマーケティングの方法論が出てくるケースがある。
実は既に日本で全国的に取られていた方法だ。それは「かんぽの宿」、旅行付き保険の販売である。
いわば旅行はオマケで、販売商品は金融商品だ。しかし当時は高金利時代だったため、純粋な保障としてよりも、資産運用に積極的に利用された。
「いきなり家計から自分の旅行代を出してくれとは言えないが、オマケで付いてタダで行けるということなら家庭の中で説得もしやすい」
これは、深いところでの本質的なペルソナ設定が功を奏した最もわかりやすい事例だ。
本人の性格など内面的な人格の分析だけでは、こうした事例は起こり得ないだろう。
結びに
私はこうしたマーケティング戦略を、本来の意味でのペルソナマーケティングであると確信している。
個人が自由に選べる消費に限って言えば、世間一般で言われているペルソナマーケティングで対応できるが、それは「ペルソナ」に着目したものではない。
社会の中での外面的人格の影響を考慮して、マーケティング戦略の中で応用することを本当のペルソナマーケティングだと考えている。
だからこそペルソナ設定においては、対象となるターゲットのモデル化において、一般的なペルソナ設定に加えて、役割に応じて変化する心理状況を考慮する必要がある。
同時にそうした心理の変化の中で、どうすれば新しい活路を見出す事ができるのかを検討する必要があるだろう。
これが私が提唱する最強の「ペルソナ設定」、最強のペルソナマーケティングである。
(初回投稿日 2017年3月18日)