第二章 あかねいろのまごころ 第二十話|霧深き夜に見た繊月


一平が去った後も、祭りの熱気は衰えるどころか、さらにヒートアップしていた。だが、「まごころ弁当」のテント周辺で起きている現象は、明らかに異常だった。

「ねえ、ここだよね?」「まだあるかな?」

先ほどまでは、通りがかりの客が足を止める程度だったのが、急に若い女性やカップルを中心とした集団が、テントを目がけて一直線に向かってくるようになったのだ。あっという間にテントの前には長蛇の列ができ、最後尾が見えないほどになっていた。

「え、ちょっと……何これ?」

真紀は目を白黒させた。浩二も厨房の手を止め、呆然と外を見つめている。

「おい真紀、これ一体どうなってるんだ? さっきまでとは客層が全然違うぞ」

その時、列をかき分けるようにして、一人の男が笑顔で近づいてきた。大輝だ。彼の隣には、モデルのように洗練されたファッションに身を包んだ、若い女性が連れ添っている。一見するとカップルのようだが、二人の距離感はどこかビジネスライクでもあった。

「真紀さん、浩二さん! すごい行列ですね!」

大輝は悪びれもせず、いつもの調子で声をかけた。

「大輝さん! これ、一体何が……?」

真紀が問いかけると、大輝は隣の女性を掌で示した。

「紹介します。彼女はミナミ。実はフォロワー数十万人を抱えるインフルエンサーなんです。僕の仕事仲間でして」

ミナミと呼ばれた女性は、スマートフォンを片手に軽く会釈した。

「初めまして〜。お弁当、すごく楽しみにしてたんです」

大輝が種明かしをした。

「実は彼女、昨日の夜から『明日はこのお祭に行く』って投稿してて、今日の朝には『このお弁当屋さんが気になる!絶対食べる!』って、真紀さんの店のアカウントをタグ付けしてストーリーに上げてくれてたんですよ」

真紀は慌てて自分のスマホを取り出し、Instagramを確認した。通知欄が今まで見たことのない数で埋め尽くされている。ミナミの投稿を見たファンたちが、彼女と同じものを食べようと、あるいは彼女に会えるかもしれないと期待して、この場所に殺到していたのだ。これが、インフルエンサーマーケティングの威力……。真紀は背筋が寒くなるような、得体の知れないエネルギーを感じた。

しかし、現実は非情だった。

「すみません……! 只今をもちまして、本日分のお弁当は完売いたしました!」

浩二の声が響いた。準備していた数は、通常の予想をはるかに上回っていたが、この突発的な「バズ」の前にはあまりにも少なすぎた。

「えー、うそ!」「マジかよ、せっかく来たのに」

行列からは落胆のため息と、不満の声が漏れた。そして、当のミナミもまた、露骨に残念そうな表情を浮かべた。
「え〜、売り切れちゃったんですか? ショック……」

彼女はすぐにスマホを操作し、その場で写真を撮り始めた。「完売」の札と、自分のがっかりした顔。
数分後、彼女のSNSには新しい投稿がアップされていた。

『楽しみにしていたお弁当、目の前で売り切れちゃった😭 食べたかったなぁ……』

その投稿は瞬く間に拡散され、「かわいそう!」「そんなに人気なんだ」というコメントが次々と書き込まれていく。

真紀は、行列に並んでくれた人々の失望感を肌で感じ、胸が痛んだ。せっかく興味を持って来てくれたのに、手ぶらで帰らせてしまう。これはチャンスであると同時に、店への不満を生むリスクでもあった。

その時、一平の言葉が脳裏をよぎった。

『今日のこの熱を、どうやって冷めない資産として残すかだ』

ただ謝って終わらせてはいけない。この「買えなかった」という強烈な体験を、次回の期待に変えなければ。

真紀は、急いで残っていたチラシを掴むと、行列の方々へ駆け寄った。

「本当に申し訳ありません! 予想以上の反響で、ご用意できませんでした!」

真紀は一人一人に頭を下げながら、チラシを手渡していった。そして、必ずこの一言を添えた。

「次回の販売予定や、予約の情報は必ずSNSでお知らせします! ぜひチェックしてください!」

ただの完売詫びではない。「次は逃したくない」という心理に働きかける、次回の予告。チラシを受け取る人々の多くは、その場でスマホを取り出し、QRコードを読み込んでいく。

「またSNSでお知らせします」

その言葉は、祭りの喧騒の中で、真紀自身にも言い聞かせるような誓いの言葉となった。インフルエンサーという劇薬によってもたらされた瞬間的な爆発。しかし、その残り火を確かな炎に変えるのは、これからの自分たちの地道な努力なのだと、真紀は強く確信していた。

第二章 あかねいろのまごころ 第二十一話

第二章 あかねいろのまごころ 第十九話

第二章 あかねいろのまごころ(第二章の目次)

霧深き夜に見た繊月 ― 小さな会社の起死回生 低予算からのWeb集客戦略(目次)


著者・監修 : 株式会社ファンフェアファンファーレ

2012年創業の京都のWeb制作会社 ホームページ制作やSEO、Web集客・Webマーケティングをメインテーマにお届け。SEOやAI活用、Web以外の集客何でも来いです。中小零細企業を中心に「きちんとしたホームページ集客」を考えて、ホームページ制作や様々なWeb集客戦略を提案しています。 ホームページ制作に限ると、のべ制作数は160社(少ないって?それはそれだけ1社あたりのWeb集客施策や修正に集中してるからさ)

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